「行かせない理由」
信じられない。 いくらケンカしたからって、こんな事までする?
私は目の前の光景にただ呆然としていた。 なのに。 「やあ。――初めまして」 本当に初めて会うひとのように、にっこり笑いかける赤褐色の瞳。 信じられない。 私の隣の女の子たちが嬉しそうに頬を染める。
何度でも言うわ。
信じられない。
ジョーのばか。
今日が合コンの日だなんて、ジョーに言ってなかったと思う。 大体、場所が悪すぎる。 どうして合コンに張々湖飯店なんか選んだのだろう。 なのにこうして出席する羽目になったのは、ひとえに――そう、ひとえにこの目の前のひとのせいに他ならない。
「合コン!?何だってそんなのに行くんだよ」 腕を組んでソファにふんぞり返っているのはジョー。 「そんなの、絶対駄目だ」 私は花を活けた花瓶の位置を直すふりをする。 「新たな出会いがあるかもしれないじゃない?」 ジョーはソファに座り直し、こちらをきっと睨みつけた。 「そんな必要ないだろう!」 口を閉ざし、視線を彷徨わせる。 ――どうしてちゃんと言ってくれないのだろう? 「ともかく、駄目なものは駄目だ」 途端に言葉は尻すぼみに小さくなり、顔は前髪に隠されてしまう。どんな表情をしているのかわからない。 「別に理由なんかないんでしょう?だったらいいじゃない」 ジョーはもごもごと口の中で呟くだけ。 「あなたが止めても私は行きますから」 その声には騙されない。 「楽しみだわ。新たな出会い。きっとすごーく素敵なひとに出会えるんだわ!」 わざと大きな声で言ってもジョーは反応しない。 「何を着て行こうかしら?オシャレして行かなくっちゃ!」 ひらひらと手を振ってリビングのドアを閉めた。
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