「行かせない理由」

 

 

信じられない。

いくらケンカしたからって、こんな事までする?

 

私は目の前の光景にただ呆然としていた。

なのに。

「やあ。――初めまして」

本当に初めて会うひとのように、にっこり笑いかける赤褐色の瞳。

信じられない。

私の隣の女の子たちが嬉しそうに頬を染める。
自分の笑顔の効果をじゅうぶんわかっているような振る舞いも信じられなかった。
穏やかな表情で。
テーブルの上で両手を組んで肘をついて。
そうしてじっとこちらを見つめている。

 

何度でも言うわ。

 

信じられない。

 

ジョーのばか。

 

 

 

 

今日が合コンの日だなんて、ジョーに言ってなかったと思う。
でも、どこからリークしたのかは大方予想がつく。
私は首を伸ばして厨房の方を見つめたけれど、グレートも張々湖も姿を隠したままだった。

大体、場所が悪すぎる。

どうして合コンに張々湖飯店なんか選んだのだろう。
本当はその時点で断るべきだったのだ。

なのにこうして出席する羽目になったのは、ひとえに――そう、ひとえにこの目の前のひとのせいに他ならない。

 

 

「合コン!?何だってそんなのに行くんだよ」
「行くとは言ってないわ。誘われたって言っただけよ?」
「同じことだよ」

腕を組んでソファにふんぞり返っているのはジョー。
先刻、私が合コンに誘われたという話しをしてから、ずっとこんな状態だった。

「そんなの、絶対駄目だ」
「あらどうして?面白そうじゃない」
「駄目だよっ。いったい、どんなつもりで行くというんだい?」
「どんなつもり・・・って」

私は花を活けた花瓶の位置を直すふりをする。
そうしてそっと花の陰からジョーの様子を窺った。

「新たな出会いがあるかもしれないじゃない?」
「新たな出会いっ!?」

ジョーはソファに座り直し、こちらをきっと睨みつけた。

「そんな必要ないだろう!」
「あら、私がお友達を増やしちゃいけないの?」
「そういう意味じゃない」
「なら、どういう意味?」
「・・・・」

口を閉ざし、視線を彷徨わせる。

――どうしてちゃんと言ってくれないのだろう?

「ともかく、駄目なものは駄目だ」
「だから理由を聞かせて頂戴」
「り。理由、って・・・」

途端に言葉は尻すぼみに小さくなり、顔は前髪に隠されてしまう。どんな表情をしているのかわからない。

「別に理由なんかないんでしょう?だったらいいじゃない」
「・・・でも」

ジョーはもごもごと口の中で呟くだけ。

「あなたが止めても私は行きますから」
「ふ、フランソワーズ」

その声には騙されない。

「楽しみだわ。新たな出会い。きっとすごーく素敵なひとに出会えるんだわ!」
「・・・・」

わざと大きな声で言ってもジョーは反応しない。

「何を着て行こうかしら?オシャレして行かなくっちゃ!」
「・・・・」
「――じゃあ、準備があるから」

ひらひらと手を振ってリビングのドアを閉めた。
そのあと、彼がどうしていたのかは知らない。