「年下の男の子」
〜お題もの「恋にありがちな20の出来事」・小さな事に見出す幸せ より〜
「年下の男の子っていう歌があるんですってね」 「うん?なんの話?」 エンジンをかけながらジョーが問う。 「ずっと昔に流行った歌謡曲みたいだけど、今でも知ってるひとは多いんですって。ジョーも知ってるかしらと思って」 年齢なんて関係ないわ。 永遠に重なることはない。 ジョーの声が険しくなる。 「そういう話を今度したら許さないからね」 ジョーの手が私の手の上に重なる。 「――今、一緒に生きているんだから。それだけじゃ駄目?」 年齢の話になると、ちょっとだけ怖くなるジョー。
私は迎えに来たジョーの車に乗り込むとドアを閉めてから言った。
「・・・知ってるけど、それがどうかした?」
「今日、バレエのお友達と話していたんだけど、年下の彼氏がいるひとはその歌がぴったりなんですってね」
「・・・ふうん」
「――だから」
だから、私とジョーもそうよね。
そう思った。
もちろん、バレエの友達にそんなことは言わない。
だって外見上、私とジョーはほぼ同世代なんだし。まさか私が数十歳も年上だなんて思いもよらないだろうし。
だから私はひとり胸の裡で思ったのだ。
私にとって、いつまでたっても――どこまでいっても――ジョーは永遠に年下の男の子なのだ――と。
――別に、年下だっていいじゃない。
そう思ってみたりもするけれど、それでもどこか気にしている。
そんな自分は好きじゃないけれど、でも哀しい事に私とジョーの生きていた時代が違うのは事実なのだ。
黙ってしまった私にジョーは何も言わず、しばらくそのまま車を走らせた。
どのくらいそうしていただろうか。
ふとジョーが口を開いた。
「――僕は年下じゃないよ」
えっ?
「そう思ったことなんか一度も無いし、どうでもいいよ。そんなこと」
私は、ジョーは私を慰めようと思って強がっているだけだろうと思った。
だって、気にしていないわけがないじゃない。どうしたって私は――
「フランソワーズ。怒るよ?」
――でも。
「フランソワーズはフランソワーズ。僕にとってはそれだけで、あとはどうでもいい。それともフランソワーズは僕と生きていた時代が違うから、僕を嫌いになる?疎ましく思う?」
「ううん、思わないわ!」
「だろう?――それに」
――ううん。
私はジョーの視線を感じ、そちらを見ようと思ったけれどやめた。
顔を上げたら、涙がこぼれそうだったから。
そんなささいなことが――嬉しい、なんて変かしら。
怒られるのが、叱られるのが――幸せ、なんて。
「――泣き虫」
ジョーが私の頭を撫でる。
「・・・ん」
私が泣き虫になるのはジョーがそばにいるときだけ。
でもそれは、私にとってきっと――とても幸せな時間。