「桜と君」
「あっ・・・桜」
すぐ隣を歩いているフランソワーズの頭の上に、桜の花びらが着地した。
ふんわりと。
初めからそこが目的地だったかのように。
「えっ?」
フランソワーズがジョーに目を向ける。
「駄目だよ、じっとしてて」
「なあに?」
桜の花びらとフランソワーズ。
ただそれだけのことなのに、なんだかジョーは嬉しくなった。
「なあに?」
「なんでもないよ」
「だって、にやにやしてるじゃない。気になるわ」
「うん?――うん」
まるで春の精みたいだ。
なんて思ったことは、ジョーのなかの秘密だった。
桜の花びらが舞う。
フランソワーズを包むように風にのって流れてゆく。
「やっと春らしいあたたかさになったなぁって思っただけさ」
そうして繋いだ手に少しだけ力をこめた。