「笑ってよ」
過酷なミッションだった。 僕たちは全員――無傷ではなかったが――命にかかわるケガはしておらず、そういう意味では無事だった。 けれど、僕たちと関わった人たちや助ける事ができなかった人たちは、大なり小なり傷を負った。 帰投中のドルフィン号の空気は重く暗い。 いつも、ミッション後はそうだった。 だから、特に気にしていなかったんだ。 君が落ち込んでいるのを知っていても。
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「なぁ、おい――アイツ、大丈夫かよ?」 数日経ったある日の朝食後、僕はジェットに呼び止められた。 「大丈夫って、何が?」 アイツというのはフランソワーズのことだ。僕にそう尋ねるような相手はひとりしかいない。 「別にいつもと変わらないと思うよ」 そう言った僕をじいっと見つめ――しばらくしてから、「そうか」と言ってジェットは視線を逸らせた。 「――余計なお世話、って事だな」 「その通り」 僕は笑って答えた。 「でも――心配してくれてありがとう」 片手を挙げて去ってゆく後ろ姿を見送りつつ、さてどうしたものかと思う。 このまま放っておくのも潮時だった。
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「――フランソワーズ。ちょっといいかな」 ノックして声をかける。が、数秒待っても返事がない。 「フランソワーズ?」 ドアのノブに手を伸ばしたところで、細く開けられた。 「――なんだ。いるんじゃないか」 別に用って訳じゃなかったけれど、その顔を見て決めた。 「出かけるから支度して」 有無を言わせず、手首を掴み部屋から引っ張り出す。 「オヤ。二人してお出かけアルか?」 にこにこ笑っている張大人に片手を上げ、靴を履くのももどかしく、僕はフランソワーズの腰に手をかけると抱き上げて玄関のドアを開けた。 「ジョー、待って、靴・・・」 ホラ、と片手に提げたミュールを見せる。フランソワーズはしばらくじたばたしていたが、僕の手が緩まないのを知ると、大人しく僕の肩に手を回した。
発進して、しばらくは無言のまま過ぎた。 ナビシートをちらりと見ると、彼女は体を固くしたまま流れてゆく景色を見つめていた。 ただただ、なされるままの状態の彼女に、僕は胸の奥が痛くなった。
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