「居なくならないから」
夜中に目が覚めた。 何かに誘われた訳でもなく。ただ――不意に。
僕は隣を気にしつつ、ゆっくりと身体を起こした。 僕はもう一度、そっと隣を見つめ、ベッドから抜け出した。 ――いや。 外は明るかった。
月と星。そして海。 波の音しか聞こえない世界。
ふと一瞬、加速装置のスイッチが戻らなかった日の事が甦る。
今は静かだけど、でも、全く音がしない訳ではない。 いま、部屋に戻れば。 君の寝息も聞こえるだろう。
あの日、僕は死んだはずだった。
たった一人でブラックゴーストと闘い、そして彼らの滅亡と共に僕は一緒に宇宙に散った。 宇宙に漂い、意識が遠のく僕の手を掴みこちら側へ引き寄せてくれたのは002だった。
001に「君に賭けたい」と伝えられた瞬間、彼の思考が全て僕の頭の中に入って来た。そして、それを全て了承したのは僕自身だった。 だから。 002の姿を見た時は驚いた。 一体、何故。 そう思った――けれど。 嬉しかった。 あの一瞬、僕は本当にひとりで死ぬつもりだった。 「犠牲は少ないほうがいい」 そう言った001。それに従った僕。 僕は小さい頃から独りだった。だから、独りには慣れている。 けれど。 「独りで死なせるものかよ」 と、最後まで僕の体を離さなかった002。 本当は、いつだって寂しかったじゃないか。 001に言われた時だって、本当は「何故、僕を?」と思った。他にも選択肢はあるのに。 僕は一番最後に加わったから、他のみんなほどには絆がない。だから――なのだ。 だけど僕は、ずっと自分自身を誤魔化してきただけだった。 本当は、いつもいつも寂しくて、常に誰かにそばにいて欲しかった。心の中で寄り添っていて欲しいと願っていた。 自分の孤独と向き合わないとわからなかった、仲間の存在の大きさ。 嬉しかったんだ。
ふと、目の前を一筋の光が流れていった。 あの日、下界から見た僕達はどう見えていたのだろうか。
大気圏突入の時の事は、少ししか憶えていない。 「君はどこに落ちたい?」 002がいつもの皮肉っぽい笑顔で言った。 仲間のいるところ。 例え、燃え尽きて大気に紛れた塵のひとつとなっても。 そして。 その後の事はわからない。 気付いた時は、ベッドの上だった。
背後に気配を感じて思わず振り返る。けれど、カーテンが風にそよいだだけだった。 君は眠っている。 ここで。 僕のそばで。
あの日、君がどんなに泣いたのか僕は知らない。
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