身体が燃え始めて炎に包まれた僕と002。
あの時の記憶はそこまで。

次に思い出すのは、ベッドの上だった。

「あれから一ヶ月過ぎたのよ」

と、君は目に涙をいっぱいにためて微笑んだね。
その優しい声と瞳に、僕はここは一体どこなのか全然わかっていなかった。
幻覚か――幻聴か。
もしこれが夢なのだとすれば、神はなんて残酷なのだろうと思った。

でも。

僕の頬にふわりと触れた君の唇の感触と、君の涙の温かさ。
これは現実だった。

僕は、生きている。

生きているんだ。

 

「002はっ!?」

身体を起こしかけた僕を優しく押し戻し、

「大丈夫。ちゃんと隣にいるわ」

首を巡らせると、確かに隣のベッドには002が――ジェットがいた。
僕と同じように横たわって。目を閉じて。
そして、その傍らには004がいた。

「お前ら、運がいいぜ」

そう言ってニヤリと笑って見せた。

「・・・ほかのみんなは・・・?」

掠れた声。これが僕の声。
こんなに声を出すのが苦しいなんて。

「みんな無事よ」

枕元で僕の髪を直しつつ、君が微笑む。

「006は、今お店に行ってるわ。007はお手伝いに」
「005と008はパトロール中だ」

渋い顔をして004が続ける。

「ったく、もうそんな必要はねえって言ってるのに聞きやしない」

そんな彼に君は笑う。

「みんな不安なのよ」
「だがな。009と002が命がけでブラックゴーストをやっつけたっつーのに」
「それでも、よ」

話しながらも君は僕から目を離さない。
優しい瞳でじっと見つめている。

「二人が完全に治るまで・・・何かしていたいのよ」
「そりゃわかるけど・・・」

そうして黙る。
僕の瞳を捉えて君は話す。

「みんなね。あなたがひとりで魔人像の中にいる、って001から聞いた時。誰も何も言わなかったけれど、心の中では、どうして自分じゃなくて009なんだ。どうしてひとりで行かせたんだ、って・・・思っていたのよ」
「それに、お前さんは自分も移せと001に食ってかかっていたしな」

えっ。

・・・そうなのか?

一瞬僕から視線を外し、君は004を軽く睨んだ。

「――もう。いいのよ、言わなくて!」

ちょっと膨れて。
そんな君を見ていると・・・生きていることが実感できる。
僕はまたみんなと一緒にいられるんだ。
そして、君とも。

「気付いたようじゃな。009」

博士が入って来た。

「意識が戻ればもう大丈夫じゃ。002も昨日、意識が戻ったし。だから009も大丈夫だと言っておるのに、二人ともきかなくてな。離れようとせんのだ」

002も意識が戻ったのか。良かった。

「まだ身体の感覚が戻っておらんから、動きもぎこちないだろうが、何、あと数日で動けるようになる。心配無用じゃ」

身体の感覚。
そういえば、感覚が無かった。
試しに指に力を入れてみる。微かに動くようだけれど・・・伝わってこない。

「003。気持ちはわかるが、そのう・・・009にはわからんよ」

博士が申し訳なさそうに言う。

わからないって・・・何、が?

僕は博士の視線を追ってみた。するとそれは僕の腕で、手のひらには君の手が滑り込んでいた。
僕の右手をしっかりと握り締めている。
でも、博士の言う通り、僕の手には何の感覚もなくて、君の手のひらの温かさも握り締める指の強さもわからなかった。

ふっと哀しく曇る蒼い瞳。

「だって・・・」

 

――あの時、僕の手は握り締めた君の指からすり抜けた。

 

「フランソワーズ。もう・・・居なくならないから」

たぶん――きっと。

すると、君の瞳は涙でいっぱいになってしまった。

「居なくなったら、許さないんだから・・・!」

 

その後すぐ、僕は再び記憶を失った。博士が薬を打ったらしい。
いったん意識が戻ったのを確認したら、またしばらく眠らなければいけないらしい。
どのくらい眠るのかは知らない。
もしかしたら、このままずっと――今のは夢で、僕は永遠に目覚めないのかもしれない。

でも。

君が僕の手を握っていてくれる。
たぶん、次に目を覚ました時も、君はそこに居てくれるのだろう。
そう信じられる。
だから目をつむっても怖くはない。
これは全部――夢ではなく、現実なのだから。

 

今度の眠りは、きっと心地良いだろう。