-2-

私には兄がひとりいる。
パリに住んでいて、職業はパイロット。
だからあまり家にはいない。

私がブラックゴーストにさらわれた時、兄は必死で追いかけたけど追いつけなかったと言って泣いた。
助けられなくてゴメンと何度も何度も繰り返して。
そして、私の身体のことを知って、また泣いた。
私をしっかりと抱きしめて、辛かったね。怖かったね。って、私の髪を優しく撫でて。
そして、帰ってきてくれてありがとう。と言った。
また一緒に暮らそう、って言ってくれた。
もしまたブラックゴーストがやって来ても、今度は絶対に守るから、って。
だから私は安心して、ずっと兄と一緒にパリで暮らしていた。
再び集まることになるまでは。

 

 

いつかまた戦う日がくるかもしれない。

その事は最初からわかっていた。
自分が「戦闘用サイボーグ」に改造されたと知った時から。

仕方ない・・・と思った。
これも運命だと。

最初は兄も反対した。
他に8人もいるなら、何もお前が行かなくてもいいんじゃないかと言って。
それに、女の子は一人だけなんだし、自分から行くことはないと。
行きたくないのに行く必要もないし、強要される筋合いもないといって怒った。
もうこれ以上、辛い目に遭うことはないとも言った。
今まで通り、ここで暮らして、バレリーナになって、そして誰かと家庭を築き
普通の当たり前の人生を送ればいいと。
もし誰かが迎えに来ても、絶対に連れて行かせやしないと頑張った。

でもね。

ごめんね、お兄ちゃん。

お兄ちゃんのことは大好きよ。
いつまでも一緒に暮らしていけたらいいな、っていつも思ってるの。

だけどね。

ごめんね、お兄ちゃん。

私ね。運命のひとに会ってしまったの。
彼もサイボーグなの。一緒にいたいの。
彼を守りたいの。

だから・・・

ごめんね、お兄ちゃん。

私は行くわ。
辛くたって、大丈夫よ。怖い目に遭っても泣かない。
だって、彼がいるもの。

・・・ううん。
彼は別に私のことなんて特別に思ってくれてなんかいない。
優先して助けてくれたり、優しくしてくれたり、そんなことはしてくれない。
でも、違うのよお兄ちゃん。
だって私は、そんな事は望んでない。
そうじゃないの。
そんなんじゃないの。
ただ一緒にいたいの。隣に居られるだけでいいの。
そうなの。幸せなの・・・それだけで。

・・・うん。
改造されたのは悲劇だったけれど、だけどね。
今は、彼に出会えたことの方が何倍も大切なの。
だって、もしかしたら・・・改造されてなかったら、彼には一生会えずにいたかもしれないんだもの。

だから、お兄ちゃん。
お願い。

行かせてね?