お兄ちゃんとジョーが初めて会った日のことは忘れられない。
前もって、帰る時にジョーも一緒だと言ってあったのに、ドアを開けた兄はひどく驚いていた。
どうやら、私を送ってジョーはすぐに帰るものと思っていたらしい。
一方のジョーはというと、かなり緊張していておかしかった。
部屋の中で腕組みをして椅子に座り、じっとジョーを見つめる兄と、直立不動のジョー。
「・・・これが、最強の男なのか?」
と、おもむろに言った兄。
私はそれが質問なのかひとりごとなのか真意をはかりかね、返事に困った。
そうしたらジョーは、
「最強かどうかはわかりませんが、僕は何があってもフランソワーズを守ります」
と大真面目に言った。
思わず見つめた横顔は真剣で・・・瞳はまっすぐに兄を見ていた。
兄はというと、「何があっても?」と小さく返し、
「もし、妹と、他に女性が助けを求めていて、どちらか片方しか助ける時間がなかったとしたらどうする?」
と意地悪な質問をした。ちらりと私の方を見つめて。
いっしゅん、兄に向かって舌を出してみせる。まったくもう。意地悪なんだから。
でもね。ジョーの答えはわかってる。
「先に女性を助けます」
言い切ったジョーに「ほぉ」と眉を上げ、「妹を見捨てるんだな?」と言った。
けれどもジョーはすぐに続けて、
「そしてすぐにフランソワーズを助けに戻ります」
「間に合わないぞ」
「間に合わせます」
「時間がないんだ」
「それでも、間に合わせます」
「・・・諦めないのか」
「諦めません」
そして静寂。
兄とジョーを結ぶ視線。
先に視線を外したのは兄だった。
「・・・お前はそれでいいのか?」
苦笑しながら私に向かって言う。
「待っても待っても、戻って来ない時もあるんだぞ。助けたくても戻れない事情が発生する時だってある」
厳しい表情で言う。
「どんなにお前を守りたくても、できない時もある。・・・俺のようにな」
お兄ちゃん。
「お前はそれでもいいのか?絶対に戻ってくると、助けに来ると、約束なんてできないんだぞ」
私はそれでもいいのと言い掛けた時、私の横でジョーが言った。
「僕は絶対に戻ります。何があっても必ず」
そうして兄をじっと見つめた。
今度は兄も視線を外さなかった。
ジョーを見つめたまま、小さく言っただけ。
「わかった」
と。