-4- どうして急に兄のことを思い出したんだろう。 バレエの発表会で、初めて主役を踊った時にプレゼントしてくれた青いカチューシャ。 手にとろうとして、やめた。 そうして、手前のピンクのカチューシャを手にとり引き出しを閉めた。 そういえば、これを買ってもらった時は・・・
しばらく帰ってなかったから、そろそろ恋しくなったのかな。パリの街と、お兄ちゃんが。
今日あたり電話してみようかな。でも、家にいるかしら?
そんな事を考えながら、ドレッサーに座り鏡の前で髪を梳く。
引き出しを開けて、カチューシャを取り出して・・・手が止まった。
いつものピンクのカチューシャの奥には、ブルーのカチューシャがある。
それはいつもそこにあって、見慣れているはずだけど・・・。
・・・お兄ちゃん。
お前の瞳の色と同じだよと言って。
よく似合うよと優しく言って、そして笑った。
青いカチューシャ。
今はもう、身につけることはない。
何故ならこれは、改造される前の幸せだったときの象徴。
今はもう絶対に戻れない時の記憶。
だから大事にしまっておく。
もしいつか、平和な日々が訪れるまで、壊さないように大切に。
そのまま、在るべき場所から動かさず、いつでもそこに在るように。