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いつものようにピンクのカチューシャを手にとり、頭につけようとして気がついた。
違った。
今日は、これじゃなくて・・・

 

 

 

「フランソワーズ、準備はできた?」
ノックの音と共に声がする。
「ええ、いま行くわ」
部屋を出ると、正装したジョーが立っていた。私を見つめ、瞳がすうっと丸くなる。
「何?・・・どこかおかしい?」
思わず、自分の格好をもう一度チェックする。
バッグはちゃんとパーティ用の小ぶりなのだし、コートもドレスアップ用の薄いロングコートだし・・・
「いや、おかしくないよ、全然」
そう言って、そっと肩を抱き寄せ小さく耳元で言った。
「良かった。似合ってるよ、そのカチューシャ」

 

これは、ジョーと一緒にお店で選んで、そして初めてジョーが買ってくれたカチューシャ。
青いのもピンクのも要らない。という私に困って、すごーく悩んで。
そして、最後に決めてくれた。アイボリーの、パールが横に並ぶようにあしらわれたカチューシャ。
細身できゃしゃで、簡単に壊れてしまいそうな。
実用的じゃないからどうする?と言う彼に、いいの、特別な日につけるからと言った私。
例えば、あなたとのデートの時とか。
そう言ったら、真面目な顔してこう言った。
「だったら、たくさんデートしないといけないな」
・・・ばか。ジョーのばか。
とっさに返事ができなくて、うつむいた私。
もう。どうしてそんな嬉しいことを、お店の中でさらりと突然言うの?ムードも何もないじゃない。
ばかばか、ジョーのばか。嫌い。
「そうしないと、つけてるところを見られないし」
そう言って笑った、ジョーの瞳。
大嫌い。

きっと一生、忘れない。