「死の商人」とは戦争を仕掛け、武器を売り捌くというだけではない。
元々、臓器売買を主体としており、そもそもサイボーグという概念はそれが元になっていた。

人体に二つある臓器ならば、臓器摘出及び生体移植において問題は無い。が、一つしかない臓器――例えば心臓――は、生体間移植は無理である。心臓を失えば生きてはいないからである。従って、心臓を移植する場合は、死体生体間移植に限られている。
しかし、現実には、心臓もしくは人工心臓の需要は多い。が、供給は殆どゼロに近く常に足りない状態である。

これに目をつけた「死の商人」は、あらゆる最先端技術を集め必要機材を揃え、タブー視され研究を断念あるいは学会を追放された医学者、生理学者、科学者、化学者、物理学者等々を引き抜き集めた。彼らは、倫理面や経済面、世論などで研究を続けられずにいたため、それら全てから解放される上にいくらでも好きなだけ研究をしてもよいという「死の商人」の話を聞いて自らやって来た者もいたという。

可能な限りの臓器を摘出し、高値で売買すると共に、残された人体に人工の臓器を移植するという研究も進められた。

このように、臓器売買と人工臓器の開発という両者を満たす研究が「サイボーグ」であった。

とはいえ、人体から臓器の全てを摘出可能というわけではない。
闇雲に摘出しても、生体に生着しなければ意味がないのである。
更に言うと、「生着しない」ということが既に証明されているものを摘出しても需要がないのだ。
「死の商人」というのは、その名の通り「商人」であるから、売れないものは売らない。需要の無い臓器を手間暇かけて摘出したところで、売れなければその手術にかかった経費が発生するだけで利益にはなりえないのである。
研究者たちは、それでも「研究」と称しあらゆる臓器に於いて実験的な摘出及び生体間移植をすすめたがったが、「死の商人」は金にならないものに対してはシビアだった。
それは、逆に言えば「金になるものに対しては禁忌はない」という意味でもあった。

具体的には、どのような臓器が非対象になったのかというと、脳・副腎・生殖臓器である。
それ以外の臓器に関しては、研究が進められた。

人工臓器と生体との折り合い、生着率とその副作用について膨大なデータがとられた。
実験体となった人間は、成功したものは少なく、また、成功しても生存率は極めて不安定であったという。
そうして研究が進められ――誕生したのがゼロゼロナンバーサイボーグであった。

しかし、彼らとて所詮は試作品の段階だった。

彼らは脳・副腎・生殖臓器とそれらを循環する血液以外は全て人工物に置き換えられた。
副腎はホルモンを統べる臓器であるため摘出すれば人体のバランスが変化する。そのため手をつけることはできなかった。
生殖臓器は、そのホルモンの特殊性及び他の個体に生着しえないという理由からそのまま残された。
ホルモンの特殊性とは、種としての闘争心・生存本能を司っているということである。
試作品として、それらを摘出したサイボーグも造られた。が、それらは自我が崩壊し、ただのロボットと化してしまった。
それは「自分で考え、学習し成長する兵器であるサイボーグ」という概念を大きく逸脱していた。
従って、ゼロゼロナンバーサイボーグたちの脳と副腎、そして生殖臓器はそのまま残されたのだった。

 

 

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