僕は両親を知らない。
家族の愛情を知らない。
産まれたばかりの子供なら無条件に与えられるはずの愛情さえ、僕には与えられなかった。
いや。
もしかしたら、与えられたのかもしれない。けれどすぐに、その愛情は去っていった。
一度与えられ、そしてすぐに失くした「愛情」。
ひとり取り残された自分。
孤独で、ひどく不安で。望んでも、手を伸ばしても掴めない。抱き返してくれる温かい手も、無い。
ただ寒くて震えていた。
まだ産まれて間もない僕だったけれど、おそらく微かに「その時の記憶」が残っているのに違いない。
そしてそれは、いまなお僕を蝕む。
おそらく僕は、「自分に注がれる愛情」を感じても、いつか失くしてしまう事に怯えているのだろう。
自分の「記憶」がそう思わせる。
それらは僕にとって「望んでも得られない」ものだったから。
望んでも、望んでも、絶対に手に入らなかった優しくて温かいもの。
永遠に得られるわけがないと諦めていた。
だから、目の前に差し出されても、どう扱っていいのかわからない。
手を伸ばしたら・・・触れたら、消えてしまう?
最初から持っていないのと、持っていたのに失うのとでは後者の方が辛い。
だったら最初から、手に入れずに見ているだけでいい。
でも。
君はまっすぐに僕を見つめていた。
僕が手を伸ばせずに迷っていても、じっと待っていてくれた。変わらぬ温かさと優しさを湛えて。
だから僕は、安心して君に触れた。
そして君の愛情を知った。
・・・だけど。
君は本当に僕の前から去らないだろうか?
だって、僕と君は違いすぎる。
僕をとりまくもの、君を包むもの。
世界が違う。
僕にとって、君はいつでも輝いていて・・・手の届かない存在。
憧れて、焦がれた。
そんな手の届かない存在のはずの君が、闇に沈む僕なんかを好きになってくれるはずがない。
そんなの、きっと「同情」に過ぎないんだ。
君は誰にでも優しいから。
だけど。
勘違いでもいい。
君が「同情」と「愛情」の取り違えに気付く前に。
僕は君を僕一人だけのものにしてしまえばいい。
何も見ないで。
何も聞かないで。
僕だけを見て。
僕の声だけを聞いて。
僕ひとりだけの、君に。