目の前にいる彼女が鬱陶しかった。

幸せに年を重ねてきたのであろう彼女が。
きっと、誕生日には近親者からの祝いの言葉とプレゼントに囲まれ、幸せに過ごしてきたのであろう彼女が。

 

「ごめんなさい」

 

いきなり彼女が言った。
怒っていた002も驚いて力を抜いた。

いったん瞳を伏せて言った後、今度は僕の瞳をじっと見つめてニッコリと笑んだ。

「私の訊き方が悪かったのよね?」

ちょっと首を傾げて続ける。

「ジョーの誕生日は・・・私たちに初めて会った日。――で、いいわよね?」

「なっ・・・、おい、フランソワーズ!」

002が今度は003に向かって気色ばむ。

「何だよそれ。それはコイツがサイボーグになった日って意味だろう?」
「・・・そうよ」

静かに肯定すると、僕の方を見てもう一度言った。

「いいわよね?ジョー」
「・・・ああ」
「ありがと」

そう言うと、もう一度微笑んでから部屋を出て行った。
胸元に抱えたノートに何やら書き込んで。

――結局、そういう事だ。

彼女は冷酷に判断した。
僕に「ヒトとして生まれた正確な日」は存在しない。だから、もうひとつの「サイボーグとして目が覚めた日」を選択しただけだ。
唯一はっきりしている日付はそれしかなかったから。

僕がサイボーグになって得たもの、それは「誕生日」だった。

 

――どうでもいいさ。

そんなもの、どうでもいい。

 

 

***

 

 

どうして女の子って誕生日なんか気にするんだろうな。
御他聞に洩れず――目の前の彼女もそういう質問をしてきた。

「あなたの誕生日はいつなの?」

邪気の無い瞳で。
僕は自分がサイボーグとして覚醒した日を言った。

「そう。じゃあ・・・――座ね」

星座なんて、聞いてもよくわからない。

「んー・・・・タイプが一致しないのよねぇ・・・」

当然だ。
生まれた日という訳ではないのだから。

「――でも、もうすぐね。誕生日。プレゼントを考えなくちゃ」

そう言って、彼女は黒い瞳を輝かせた。

でも結局、彼女からプレゼントを貰うことはなかった。
彼女はある日突然、僕の前から姿を消してしまったから。

 

 

ほら。
やっぱり僕は――僕の誕生日なんて偽りだから、・・・誰にも祝ってなんかもらえない。
もしかしたら。
そんな期待をしかけていた自分が滑稽だった。

酷く惨めだった。

 

 

***

 

 

誕生日。

クリスマス。

世の中の、公然と贈り物をする日。される日。

僕はそれらの日全てが嫌いだった。

――偽善者ぶって。
欲しくもないモノはくれるくせに、本当に欲しいモノは絶対にくれない。