ジョーのお誕生日2010

第二話 「お誕生日。さて、どうする?何をする?」


@旧ゼロの場合

 

「ねえ、ジョー。ずうっと一緒にいるっていうの、それってつまりその……」


いつもの朝。
ギルモア邸のリビングでコーヒーを飲んでいるときだった。
スリーがもじもじと言いにくそうに言う。
ナインはただ黙って、カップの縁からスリーを見ていた。


「だ、だから、その、……つまり」
「つまり?」
「あの、私、お泊まりする……ってことよね?」
「そうだね」
「で……」

さらりと同意されたものの、それの意味するところを思うと、スリーの体温は上昇した。
頬が燃えるように熱い。

今さら、そんなに慌てなくてもいいじゃない、もう……慣れているんだし、何回もしてるんだから。

そう思った途端、今度は自分の思考に慌てた。

いやだ、慣れてるってそういう意味じゃないし、何回もしてるなんてそんなの、

「……顔、赤いぞ」
「えっ!?」

ナインに言われ、声が裏返った。

「べべつにジョーのことを考えてたわけじゃ」
「ふうん。考えてたんだ?」
「かっ、考えてたなんて言ってないもんっ」
「そう?」
「そうよっ」

顔色ひとつ変わらないナイン。
口調もいつもと変わらなかったから、ナインは自分をからかって遊ぼうとしているようではなかった。
スリーはそう判断した。
ナインはただ単に事実を指摘しただけで、それ以上でも以下でもないのだ。
自分の顔が赤いのを不思議に思っただけで。

だからスリーは大きく深呼吸した。ラジオ体操でするように。

ナインとずっと一緒。そう思っただけで、夜の……とても優しいナインと彼の肌の色を思い浮かべるなんておかしいのだ。自分は邪念に支配されている。
大体、彼だってそういう意味でいるわけではないかもしれないのだ。
ずっと一緒にレイトショーを観るだけなのかもしれないし、夜通しドライブなのかもしれない。
ともかく、こんなオカシナ妄想はどこかへやらなくては。

だからスリーは一生懸命、深呼吸をした。

「……ほっぺが真っ赤だな」
「なんでもないわ、放っておいて頂戴」
「うん、まあ、いいけど……」

そうしてちらりと目が合って。

その瞬間、ナインは大笑いしていた。

「えっ、なあに、どうしたのよジョー」
「いやあ、なんでもないよっ」

透けて見えるスリーの気持ち。
それが嬉しくてくすぐったくて、ナインは笑った。

「なあに、いやなジョーね、もう」

 

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A新ゼロの場合

 

フランソワーズはずっと考えていた。
考えて考えて考えて。

そして、ふっと思い出したのだ。

「いやだ、その日ってモナコグランプリじゃない!」

毎年のように日本で迎えるジョーの誕生日ではないのだ。
雌雄を決するといっても過言ではないモナコグランプリ。
その日はジョーと一緒にモナコにいるのである。
だから、ジョーがいくら鼻を鳴らしたところで、昨年やその前のようなプレゼントをするわけにはいかないし、しようにもできない。

「やだわ、私ったらすっかり……」

忘れてたと呟くと、大きく息をついた。

ほっとしたといえばほっとしたけれど、なんだか少し残念なような、そんな複雑な気持ちだった。

ともかく、ジョーへのプレゼントをどうするのかは振りだしに戻った。改めて何か考えなくてはならない。

 

ジョーの欲しいもの。

 

ジョーが貰って嬉しいと思うもの。

 

それはいったい何なのか。

 

フランソワーズは知らなかったけれど、ジョーが自身の誕生日を嫌がらなくなったのは、プレゼントが彼女自身であったからだった。


だから。


そうではなくなったら、彼にとっての誕生日は再び忌避すべきものになってしまうのかもしれない。

 

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B超銀の場合

 

本当は、モナコグランプリに行くというのは当日までの秘密だった。
なのについそれを話してしまったのは、ジョーの声があまりに寂しそうだったからだろうか。


私はジョーに甘い。


仲間にも何度もそう指摘されてきた。


けれど。


直すつもりはない。


お前さんはジョーの母親でも姉でもないんだぞ。
それも何度も言われた。

もちろん、それもわかっている。
私自身、そんな驕ったことは考えたこともない。

ただ、私は。

 

ジョーの笑う顔を見たい。


嬉しいって思ってくれたなら幸せ。


ただそれだけ。


それしかない。


だから、私はジョーに甘い。

それがいいことなのか、悪いことなのかはわからない。

わからないけれど。


ジョーを笑顔にできるように頑張る自分が好き。

 

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