もう取り返しはつかない。
そう思ってはいたが、完全にそうだと思い込んでいたわけではなかった。 僕は心のどこかでそう信じていた。 あの優しいフランソワーズが、こうして喧嘩したまま事態を放置するなんて思えないのだ。 そう思い始めると、なんだか昨夜の電話での喧嘩さえもその布石だったのではないかと疑ってしまう。
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でも、よくよく考えてみれば――部屋じゅう捜したのにフランソワーズが忽然と姿を現す手がかりなどどこにもなかったし、フランソワーズ自身の影も形もなかったのだった。 そのことを僕が思い出したのは、今にもフランソワーズがピンポン鳴らすのではないかとインターホンを睨み始めてから数時間後のことであった。
結局、フランソワーズが姿を見せることはなかった。
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