『君の姿を見たくない』

「コンサートなんて久しぶりだわ」

ちら、と隣に目を遣る。
ストレンジャーの中。他愛もない話をした後で、言ってみた。
言葉に滲ませたニュアンスに気付くだろうか?
「そうだね」
けれども、運転手は薄く笑みを浮かべたまま車を操る。
運転は乱れない。

「・・・嘘ばっかり」
ため息とともに吐き出す。
「え?」
「ジョーはよく行っているでしょ?・・・知ってるのよ」
「・・・・・」
無言。
こういう時のジョーはずるい。
嘘をつかない代わりに黙る。

「あれは、グレートの付き合いで」
「そうかしら?・・・一回だけじゃないでしょう?」

また黙る。

「ぜんぶ、ミナに聞いて知ってるのよ」
ミナ。大久保ミナ。
フランソワーズの友人で、同じバレリーナ。

「グレートが一人じゃ嫌だと言うし・・・付き合いだよ、ただの」
「ふうん?お付き合いで、お花持って楽屋まで行くの」
「僕は花は持って行ってないよ」
「問題はソコじゃないでしょ?」
ピシャリと言われて二の句をつげなくなる。
「・・・何でそんなに怒るの?」
今度はフランソワーズが黙る。

助手席をそっと窺う。
少し唇を尖らせているフランソワーズ。
思わずくすっと笑みをもらす。
「・・・何よ」
「ヤキモチ」
「違うわよ」
「妬いてるんだ」
「妬いてないわよ」
「・・・素直じゃないなぁ」
くすくす笑う、ジョーの横顔。
私がアナタの事を凄く好きなのをよく知っているひと。
信じて疑わないひと。・・・悔しい。でも・・・好き。

「だって」
ジョーの横顔から視線を逸らし、手元に落とす。
バッグの持ち手をぎゅっと握り締めながら。

「私の公演には来てくれないから」