優しく呼ばれたって、答えない。
口元を結んで、泣かないように堪える。
だって、せっかくおしゃれしたのに。泣いたら化粧が落ちちゃう。
それに。
ジョーのためになんか、絶対に泣かない。
「どうかした?」
どうもしてない。
「車に酔った?」
心配そうに訊かれる。
首を振る。
車になんて酔わない。
あなたは私を乗せている時、酔うような運転なんて絶対にしないもの。
でも。
車がサービスエリアに入り、パーキングで停められた。
「大丈夫?」
再度、心配そうに訊かれる。
「・・・遅れちゃうわ。行かないと」
「いいよ、少しくらい遅れたって」
意に介さない。そんなの大した事じゃない。と。
「・・・フランソワーズ?」
ジョーの手が頭に置かれる。そのまま撫でられる。
「どうしたの?」
言ってごらん、と瞳が言っている。
そう・・・つい見てしまった、褐色の瞳。
心配そうで・・・とても優しく私を見つめるジョーの瞳。
「・・・だって」
「うん?」
「ジョーは・・・」
「僕は?」
「私の公演には行きたくない、って。・・・ミナのには行くのに」
ただのヤキモチなのはわかってる。
だから、やっとの思いで言ったのに。