「・・・ずっと前に、行ったんだよ。・・・グレートと博士と一緒に」
「来てくれてたの?」
「ウン」
「全然、知らなかった」
「・・・途中で帰ったから」
途中で帰った。・・・どうして?
観るに耐えないものだったから?
そう思いかけてすぐに否定する。
ううん。そうじゃないわ。
だってジョーにバレエがわかるとは思えないもの。

「どうして途中で帰ったの?」
「観たくなかったから」
「でも、はじめは観てくれていたんでしょう?」
「うん」
「だったらどうして」
「・・・だから、それは・・・」
顔を赤くしたまま、視線が彷徨う。
ふと気付いて、アイドリングしたままのエンジンを止める。
急に静かになる車内。
静か過ぎて、あ、しまったという顔をするあなた。

「・・・フランソワーズが、さ」
「わたし?」
「相手役と踊るだろ?」
「うん・・・?」
「その時の目が、さ」
ちら、とこちらを見つめる。
「・・・相手に気持ちがいっている目というか・・・」
「・・・・」
「見てられないんだよ」
・・・このひとって。