「もう何年になるかな」

リビングにはピュンマとアルベルト。
この時期には、決まって日本にやってくる。
そして一ヶ月程滞在してゆく。

「・・・何年たっても、ダメだな。・・・この時期は」
「仕方ないさ。・・・恋人の死ぬ最期の姿を視るっていうのは、何年経っても忘れられるもんじゃない」

そう言って、アルベルトは煙を吐き出す。

「・・・どうしてあの時、アイツは俺ではなく奴を選んだんだろうな」
「アイツって・・・イワン、か?」
「他にいないだろう」

あの時。
魔人像が宇宙空間目指して飛び去った時。
イワンが『犠牲』に選んだのは009だった。

「俺の身体の中には水爆がある。それを魔人像の中で爆破すれば・・・」

そんなこと、百も承知のはずだったのに、アイツは俺を選ばなかった。

「しかも俺には、俺がいなくなって哀しむ人もいなかった。
なんの弊害もなかったはずなんだ」

そんなことないよ、君がいなくなったらみんなが哀しむよ。
・・・・と、言いかけてやめる。いつものように。
確かに、正論かもしれない。
彼には彼女がいた。
それは仲間の誰もが知っていたことだったから。
そして、彼と彼女がどんなにお互いを大切に思っていたのかも。
・・・だから、なのかい?イワン。
だから・・・009を選んだのかい?

アルベルトの言葉は続く。半ば独白のように。

「俺は、既に大事なひとを亡くしている。それも自分の腕の中で。
・・・愛しい者と二度と会えない苦しみを知っている。
だから、あいつらにそれを味あわせたくはなかった」

彼の言葉を聞いているのも辛くなってきて、ピュンマは口を開いた。
「・・・いつ、起きるんだろうな、イワンも」

間一髪、間に合わなかった。
そう言って瞳を閉じたイワン。
003の絶叫を聞かないためだったのか。
それとも、極限まで力を使ったためだったのか。
彼の真意はわからない。
けれども、いまもなお昏々と眠り続けている。
あれから一度も目を覚ましていない。

002と009。
一度にふたりの仲間を亡くした。

残った6人は、それぞれ国に帰った。
けれども003は日本に残っていた。
博士の世話をするために。

そして
・・・奴の帰りを待つために。

 

彼女の目には、イワンが映っていなかった。

そのことにはすぐに気がついた。
彼が起きなくても全く気にしていない。
かといって、無視しているのとも違う。
ただ、気付かない。
それだけ。

彼女の目には、イワンはどう映っているのだろう?

愛しい人を死なせた仇なのだろうか。
愛しい人を助けられなかった、ただの子供、なのだろうか。

・・・ダメだな。

この時期は、みんながダメになる。
003に限った事じゃない。
僕も、アルベルトも・・・
自分の心の底までさらってしまう。
そうして、今まで溜めてきたものをあっさりと吐露してしまう。

そのために毎年、日本に来ているわけではないのに。