「ブラインドデート」
〜3組のゼロナイ〜
肩を抱かれて恥ずかしそうに顔を赤くしている彼女。 手を繋いで、時々まっすぐに顔を見合わせ微笑んでいる彼。 肩を抱かれてエスコートされることに慣れていないフランソワーズは、緊張して体を硬くしていた。 褐色の瞳と優しい声。 自分を気遣ってくれる男性。 嫌ではなかった。 ――今日は楽しもう。せっかくなんだから。 心のなかでひとつ頷いた時、ちょうど待ち合わせ場所に着いた。 ジョーはどこにいるんだろう――と、ほぼ同時に到着した二組を見つめ、そうして黒髪の彼を認めたとき、フランソワーズは体だけではなく心も瞬時に固まった。 ・・・うそ。 ただ呆然としていた。 もちろん、理性ではわかっている。 しかし。 わかっているのと目の前の光景がうまく繋がらなかった。 何しろ、彼は――ジョーは、フランソワーズに全く気がついていないようなのだ。 ――手を繋いでいる。 ジョーが。 他の女性と。 たったそれだけのことなのに、どうしようもなかった。 ――イヤ。 こんなの、イヤっ・・・・ 手を繋いで待ち合わせ場所に着いて――すぐにジョーはフランソワーズを見つけた。 ――なんだ、あれは。 あろうことか、彼女の背から肩へ腕が回されているのだ。 ジョーが見た事のない可愛い花柄のワンピース姿で。 自分ではないほかの男のために装ったのかと思うと、それだけで胸の奥がざわついた。 思わずぎゅっと手を握り締め、これはフランソワーズの手じゃなかったと気付いて緩める。 ――どうしたらいい? 今日はこの彼女とデートすることになっている。くじ引きでそう決まったし、たまにはそういうのもいいかと思っていたのだ。 それもそのはず、ジョーは自分はともかく、彼女も「他の相手とデートする」という事実をすっかり失念していたのだ。自分のフランソワーズが自分以外の男とデートなどするわけがない。それは彼のなかの不文律だったのだから。 ――泣いてる? なぜか突然、フランソワーズは下を向いて泣き出したのだ。 真っ赤な頬。 流れる大粒の涙。 それを認めた瞬間、ジョーは握っていた手を放し、まっすぐフランソワーズの元へ向かっていた。
―7―
が、肩にそっと回された腕は、必要以上に彼女の体に触れることもなく、また、歩く速度も彼女に合わせてくれており
まるで――そう、SPに守られているかのような安心感を彼女に与えていた。
ただ、慣れていないというだけで、彼はじゅうぶん頼もしかったし優しかったし、何より――好みの男性でもあったのだから。
まるで瞬間冷却されたように、気持ちが固く冷たく凍っている。
今日はそれぞれ――そういう風に遊ぶ趣向なのだと。
こちらをちらとも見ない。
そればかりか、隣の彼女としっかり手を繋いで見つめ合ったまま、何か楽しそうに話して、笑って。
自分でも不思議なくらい、まるで目が吸い寄せられるように彼女をすぐに見分けた。
が、我ながら凄いなと思う間もなく、心の中に熱い炎が燃え上がった。
しかも――フランソワーズは嫌がっていない。顔を赤くして、恥ずかしそうに何か話している。
いまこちらを見つめて話している相手がどんなに可愛くて綺麗でも――礼儀上、微笑みを浮かべて相槌をうっていてもジョーの気持ちはここにはない。
他の男の腕のなかにいるフランソワーズへ全神経を集中させていた。
こんなに――辛くなるとは思ってもいなかった。
だから、他の男の腕のなかにいる彼女を見るなど、天地がひっくり返るくらいの出来事だった。
しかも。