「ブラインドデート」
〜3組のゼロナイ〜
  手を繋いで、楽しそうに話している彼女。じっと相手を見つめ逸らされない視線。 周囲に警戒を怠らず、普通に会話をしているようで完璧に一緒にいる者の身の安全を守っている彼。       ――なんで手を繋いでるんだ?   ジョーはすぐにフランソワーズに気付いた。 だから、今日もつい――そうしてしまっていた。 隣にいる女性があまりにも綺麗で緊張しているというのもある。 が、ともかくジョーは、フランソワーズの存在にすぐに気付いたのだった。   ・・・手を放せ。   男のほうへ向かって視線を飛ばす。いわゆる、ガンを飛ばすという行為である。   いくら今日はフランソワーズと一緒だからといって――手を繋いでもいいなんてひとことだって言ってないぞ。 ・・・ん?   フランソワーズはにこにこと楽しそうにしている。   ・・・フランソワーズ?   ジョーには気付かず、自分の相手だけをじいっと見つめ――身振り手振りを交えて楽しそうに話しているのだ。 ジョーには気付いていない。   ・・・・。   ジョーは何だか心の奥から世界が崩れてゆくような虚脱感を憶えていた。   ――なんでだよ、フランソワーズ。 彼が黒髪で黒い目だから・・・珍しいだけだろう?そうだよね?   そうだと言ってくれ。       フランソワーズは到着したと同時にジョーに気付いていた。   ・・・ふうん。今日の彼女は何があっても安全ってわけね。   ジョーは優しくて強い。 最初は慣れなかった。   ――私以外のひとにもそうするのね。   当たり前のように思っていたことが、いざ他人に向けられていると何だか複雑な気分に襲われた。   もし今、何かあったらジョーは。――間違いなく、彼女を完璧に守るだろう。 ジョーの褐色の瞳は、相手を安心させるかのように優しい色を湛えている。 そして――独り占めしていたはずの。 理性では理解していても、感情はそんなにうまくコントロールできはしない。   その時だった。   そして、ジョーがゆらりと眩暈を起こしたかのようにふらついて――膝を折ったのは。    
   
       
          
   
         ―8―
         いつもの癖で、周囲の状況への警戒を怠らず全てを完璧に掌握している。
         いついかなる時でも、フランソワーズを守るために身についてしまった癖だった。
         そして、彼女がしっかりと――他の男と手を繋いでいることにも。
         が、相手は全く気付かない。気付かないというより、意に介していないという方が正しいかもしれない。
         しかし、ジョーは彼を睨みつけることをやめなかった。
         ほら。フランソワーズだって迷惑そうに――
         なんだか足に力が入らない。そのままここにへたりこんでしまいそうだった。
         思わず笑みが洩れる。
         何しろ、彼はいつもと同じように――いつどこから敵が来ても対応できるように、周囲に目を配っていたから。
         しかも、どうやら彼は「常にフランソワーズを護る」ことを自分への絶対的義務として課しているようなのだ。
         だから、普段のデートの時でも緊張を解かない。
         ミッションでもないのに、どうしてそんなに周囲へアンテナを張り巡らせるのか。
         確かに、彼の危険回避能力は天性のものがあり、彼が「こっちへ行こう」と言えばそこにはトラブルはないのだった。
         だから、いつの間にか――それが当たり前になっていて、ジョーがいれば常に自分は安全だった。
         それは、体だけのことではなくて心もそうで、ジョーは絶対にフランソワーズを悲しませたり、マイナスな感情を持たないように護ってくれていた。
         それが今日も発動されているようだった。
         当たり前だ。今日は彼女とデートするのだから。自分ではないのだから。
         よく知っている瞳だった。
         表面上は平気なフリをしていても、心の奥は・・・
         繋いだ手が乱暴に放されたのは。