「存在感」

 

―1―

 

「存在感、あるわよねえ……あのふたり」

フランソワーズはリビングのソファにどっかりと陣取るふたりの009を見た。
どちらも我がもの顔ですっかり寛いでいる。

「ごめんなさいね」

申し訳なさそうにかかった声に新ゼロフランソワーズは手を振った。

「いいのよ、009なら当然だわ」

リーダーなんだし、と付け加える。そして、なおも言い募ろうとするスリーと超銀フランソワーズを目で制した。

「存在感があるっていいことよ。うらやましいわ」
「あら、そちらの009だって」

存在感あるじゃない。と続けようとした超銀フランソワーズだったが、そういえばさっきからちらりとも姿を見せない新ゼロジョーに気付いた。

「あの、そちらの009は?」
「いるわよ、ちゃんと」
「自分のお部屋?」
「ううん。ここに」

ここ?

って、ドコ?

スリーと超銀フランソワーズが辺りを見回す。

「あそこ」

新ゼロフランソワーズが指差したのは、リビングの隅っこ。
そこには、膝を抱えて小さくなっている存在感ゼロの新ゼロジョーがいた。
影が薄い。

「あの、いったいどうしたの?」
「ちょっとしたオシオキね。すぐ落ち込むんだから!」
「……」

いったい新ゼロジョーは何をやらかしたのか。
そして新ゼロフランソワーズはどんなオシオキをしたのか。

訊ける者はいなかった。

 


 

―2―

 

「おい、お前……よその家なんだ、もう少し遠慮したらどうだ」
「そういう君こそ態度がでかくないか?」
「ふん。手土産ひとつ持ってこないなど言語道断。中元の時期だということは知ってるよな?」
「あーあ。これだから、昭和初期の人間は嫌なんだよ。今時、手土産って。今はカタログギフトが普通だ」
「それが浅慮だというんだ。だからこそ、手土産を選ぶ昔ながらの心配りがわからないか」
「なんだと」
「ふん、やるか?」

ソファの端と端。
互いにあらぬほうを見ながらの応酬だったから、傍目には会話しているようには見えなかった。
もちろん、それを見越してのふたりの009である。ぬかりはない。

「もう、すぐケンカするんだから」
「本当ね。何が気に入らないのかしら」

見守るスリーと超銀フランソワーズは同時に溜め息をついた。
009たちは何しろ相性が良くないようで、集まるといつもケンカ。003たちはいい加減に慣れてきたものの、素直じゃない男たちに溜め息をついた。

「本当は仲良しのくせに」

そうなのである。
共通の敵が現れたら、一致団結して戦う。だから本当は、きっと物凄く気が合うのに違いない。

「似てるから反発するんじゃないかしら」

ポツリと言った超銀フランソワーズの声が聞こえたのか、

「似てないよ!」

二組同時に叫ばれたから、やっぱり仲良しじゃないのと笑ってしまった。

 

***

 

ちなみに新ゼロフランソワーズは新ゼロジョーの元に座り込み、あれこれ慰め中であった。