新ゼロ「56の日」
それはギルモア邸のリビングに忽然と現れた。
最初にそれについて言及したのはジェットである。
「…これ、どうした」
「あ?」
答えたのはピュンマであった。
彼はジェットがリビングにやってくる前からそこにいたのだがそれに関しては無視を決め込んでいた。
というより、誰かが何か言うのを待っていたというのが本当のところだろう。
「――お前のか」
「違う。というか誰か一人の量じゃないだろ」
「だよな…サイズもまちまちだし」
「そう…なんだよな」
サイズがある一定のものなら、なんとなく――そう、なんとなく「誰のか」というのが予測できるのだ。
なにしろ、この邸内でもっとも消費が激しそうな人物は一人しかいないのだから――たぶん。
「にしても、だ。こういうものをこういう場所に放置というのはどうかと思うぞ」
「だな。イワン…は、意味がわからないとしてもフランソワーズの目には…」
「いちおう、女の子だしな」
「じゃあどこかに持ってくか」
「そうだな。後で配るのでもいいし」
「いや待て。そもそも誰が何の目的でここに置いたのかというのははっきりしておかないと危険だ」
「危険?」
「ああ。実は不良品でした…なんてことだったら」
ピュンマとジェットの間に冷たい風が吹いた。
かつてブラックゴースト及びネオブラックゴーストと闘った二人であるが、その時よりも真剣な顔である。
「それは――まずいな」
「ああ。どれか開けて中身を確かめ」
開けようと手を伸ばした所へ声がかかった。
「あら、不良品じゃないから大丈夫よ」
二人の手がとまり、入って来た人物を見る。秒速であった。
「ふ、フランソワーズ?」
「えっ?どういう意」
「それ、私が買ってきたんだもの。みなさんでどうぞ」
「ど、どうぞ、って」
「なんでお前がこんなもん大量に買ってきたんだ。妙なパーティでもすんのか」
言ったジェットはピュンマに尻を蹴られ悶絶した。が、フランソワーズはきょとんと目を丸くするとやだわもうとくすくす笑った。
「昨日ね、安売りしてたの。だからつい買っちゃって」
「安売り?」
「そう。いつも行く大手ドラッグストアで大安売り。みんな群がって買ってたからつい。ああいうの群集心理って言うのかしら」
「や、それにしても…」
買うだろうか?
それもこんな大量に。
「それにしたって、不良品だから安売りしてたんじゃ」
「違うわよ。ホラ、昨日は5月6日だったでしょ?「ゴムの日」だったから」
「ご…」
――ゴムの日……?
「だから、ね?だいじょうぶ。みなさんでどうぞ」
粗品のように勧められ、催眠術にかかったように無意識に手に取るピュンマだった。
「サイズとかわからないから適当に買ったんだけど」
「う、うわああああ」
フランソワーズにサイズとか生々しいことを言われたくないピュンマはそのまま耳を塞いだ。
「あ、ジョーのぶんはもう別にしてあるから遠慮しないでね」
にっこりするとリビングを後にしたフランソワーズ。
その背を呆然と見送ると、ジェットは改めてその山を見遣った。
「…って…ジョーの分はどんだけあるんだ」
(数分後にジェットとピュンマで適当に全員に配られたという)