新ゼロ「59の日」

 

「今日は告白の日だから何か告白しなくちゃ駄目なのよ?ジョー」


朝の光の中でフランソワーズが言う。
窓を開け放ち陽光をじゅうぶんに浴びている彼女の姿は金髪が輝きまるで天使のようで、ジョーは眩しくて目を細めた。
あんまり眩しいから再びシーツに潜り込んだが、無情にも引き剥がされる。天使の手によって。
そういえば天使って確か敵…とジョーが思ったところで天使が再び口を開いた。

「私も告白するから」

んっ?フランソワーズが告白?

それはちょっと面白そうだと思ったのでジョーは身体を起こした。上半身は何も着ていないのでちょっと寒い。


「あのね、」


え、もう?
今日一日を使って日何を告白するのか考えるではなく?

ということは自分もすぐにその告白とやらをしなければならないのかとジョーは軽くパニックになった。
が、天使はそんなジョーを置いてきぼりにして勝手に告白を始めてしまった。


「私、毎日ちょっとずつジョーを好きになってるのよ」

「……」

聞きようによってはかなりネツレツな愛の告白なのであろう。が、残念なことにジョーの心には全くと言っていいほど響かなかった。
目の前の天使は、きゃあ言っちゃったわどうしようと頬を赤らめもじもじしているというのに。

――それって勿体つけて言うことだったかな?

ジョーにしてみればそれは毎日毎夜のことであり、彼女の瞳から容易に感じていたことだった。
だから今さら感が拭えない。

試しに言ってみた。


「それは僕もだよ」

と。

するとフランソワーズは


「ええ。知ってるわ」


とあっさり答えた。


だよなあ。


「え、ジョー。まさかそれが告白じゃないでしょうね?」

「えっ?」


駄目なのか?


「もう。既にわかっていることを告白されても面白くないわ」


いやいや、君が今告白したことだって僕は知ってたから面白くなかったよ?


「別のことにして頂戴」

「……」


腑に落ちない。というか、ずるい。そのへんがさすが天使と言うべきか。
促すようにわくわくした瞳で見つめられ、ジョーは困って頭を掻いた。

たぶん、彼女が求めているのは普通の告白ではないのだろう。
おそらく「彼女が面白いと思う告白」でなければならない。
フランソワーズが面白がること。彼女にとって耳に新鮮な情報であること。
常に高いハードルを課せられるのは、彼がゼロゼロナインだからなのか。あるいは彼女が天使だからなのか。
その両方なのかもしれなかった。

「うーん。そうだなぁ……」

ジョーはちらりとフランソワーズを見つめるとしぶしぶという風にゆっくりと言った。これから言いにくいことを言うよという風に。
果たしてフランソワーズはわくわくしたように瞳を輝かせている。

「これはずっと秘密にしてたんだけど」
「ええ、なあに?ジョー」
「うん。僕は」
「ええ、僕は?」

 

 

 

小さな声で告げられたそれに、フランソワーズは耳まで真っ赤になると

「ジョーのえっち!もうっ知らないっ」

と捨て台詞を残し部屋を出て行った。

 

――勝った。

 

ジョーは窓の外の青空を眺めながら、天使に勝った満足感を噛み締めていた。
朝から物凄くエロい事を言ってしまった己の羞恥心は窓から捨てた。