電車で海に行きたいというフランソワーズに付き合って、僕たちは鎌倉の海へ来ていた。
かなり早く着いたにも拘らず、海岸は既に人で賑わっていた。

だから、帰りの電車も平日だというのにけっこうな混みようだった。
始発駅から乗った僕たちは、ふたりぶんのシートを確保できて並んで座っていた。

一日、海で遊んだ帰り道。
ほどよい疲労感と充実感。

フランソワーズはずっとはしゃいでいた。
僕はというと、そんな彼女の姿に釘付けで――周囲の男たちの視線ばかりを気にしていた。
おそらくフランソワーズは気付いていないだろう。
自分がどんなに可愛くて魅力的なのかということに。
だから僕は、そんな彼女から目を離すことができなくて、海の記憶なんてあやふやだった。
今日一日の記憶はフランソワーズの笑顔で始まり、たぶん笑顔で終わるのだろう。


今はこうしてフランソワーズと一緒に出かけることもできるけれど、でも――いつかは。
いつか、彼女を攫ってゆく者が出てくるのだろう。
おそらくそれが彼女にとっての運命のひとであり、待ち望んでいたひとに違いない。
僕は――僕たちは、そんな彼女を一時的に預かっているだけに過ぎない。
大体、フランソワーズがここに――僕たちの元に居るのだって、彼女の望んだことではないのだ。
ただの運命共同体。それだけの話だ。
他に選択肢がないから、仕方なく――ここに居るだけのことだ。

ここに居たいと彼女が願ったわけではない。

一緒に居たいと言ったわけでもない。

みんなとずっと一緒にいたいというわけではなく。
僕と一緒にいたいなどというはずもなかった。

だから、僕は――僕たちは、彼女を迎えに来る誰かがやって来るまで、一時的に預かっているだけであり、それは「仲間」であり「運命共同体」であるという残酷な共通項があるからにすぎなかった。


彼女を迎えに来るやつなんて来なければいいのに。


僕は意地悪く思う。
そんな迎えなど一生来なければ、フランソワーズは僕と――僕たちと、ずっと一緒にいられるのだ。