しばらくして隣のフランソワーズの身体ががくんと揺れた。 「やだ。眠っちゃってたわ」 姿勢を正して改めてシートにもたれかかる。 「いいよ。フランソワーズ。肩くらい貸すよ?」 それでもフランソワーズは僕には寄りかからず、シートに身を預け身体を固くしている。 ・・・意地っ張りだなぁ。 僕によりかかかるのなんて、今さら恥ずかしいことでもなんでもないのに。
数分後、再びフランソワーズの身体が前に傾いだ。 おっと。 手を伸ばす前にフランソワーズが気付いて身体を起こした。 「やだもう・・・」 そう言って、そうっと僕の肩と腕に身体を寄せた。 そう――こんなのは慣れている。 フランソワーズとぴったりくっつくのなんて、初めてじゃないし、そりゃもちろん、そんな時はこんな薄着じゃなくて防護服姿だけど、でも――慣れているんだ。恥ずかしがることではないし、ドキドキするようなことでもない。 そう言いつつも、僕は彼女の香りを鼻腔に感じ落ち着かなかった。 首を伸ばしてそうっと覗き込むと、フランソワーズの瞳はぴったりと閉じられていて、本当に眠り込んでいるようだった。
――フランソワーズ。 このまま君とどこかへ行ってしまおうか。
そんな考えが脳裏をよぎる。 いつか君を攫いに来る誰かがやって来る前に、僕が君を攫ってしまったらどうだろう? そんなにうまくはいかないだろうか? フランソワーズは嫌がるだろうか。 でも、嫌がろうがどうしようが攫ってしまえば、きっといつかは――
――だめだ。
許されない。 何より、誰より僕自身が自分を許せないだろう。 フランソワーズは僕の手の届かない女の子なのだから。 その日を思うと、今から胸がつぶれそうになるけれど、フランソワーズの幸せを願うなら、一日でも早くその日が来るよう願うしかない。
――だけど。
だけど、今は。
今、フランソワーズはここにいて。 僕の隣で眠っていて。 そして僕は――幸せなのだ。
その時、僕はどんな思いでこの日を振り返るのだろう。
フランソワーズはその時も僕の隣にいるだろうか。
・・・いないだろう。
たぶん。
きっと。
――それでも。
たぶん、その時の僕はきっと幸せだ。
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