しばらくして隣のフランソワーズの身体ががくんと揺れた。
慌てたように身体を起こし、照れたように微笑む。

「やだ。眠っちゃってたわ」

姿勢を正して改めてシートにもたれかかる。
今日は朝が早かったし、あれだけはしゃいだのだから眠くなるのも当たり前だろう。

「いいよ。フランソワーズ。肩くらい貸すよ?」
「えっ?」
「シートから転げ落ちたら大変だろ?」
「まっ・・・ジョーの意地悪!」

それでもフランソワーズは僕には寄りかからず、シートに身を預け身体を固くしている。

・・・意地っ張りだなぁ。

僕によりかかかるのなんて、今さら恥ずかしいことでもなんでもないのに。
何しろ、戦闘中はもっと――抱き締めたりするのも当たり前のことなのだから。

 

数分後、再びフランソワーズの身体が前に傾いだ。

おっと。

手を伸ばす前にフランソワーズが気付いて身体を起こした。

「やだもう・・・」
「ほら。言っただろう?そのうち本当に転げ落ちるぞ」
「・・・そうね。じゃあ・・・ちょっとだけ」

そう言って、そうっと僕の肩と腕に身体を寄せた。

そう――こんなのは慣れている。

フランソワーズとぴったりくっつくのなんて、初めてじゃないし、そりゃもちろん、そんな時はこんな薄着じゃなくて防護服姿だけど、でも――慣れているんだ。恥ずかしがることではないし、ドキドキするようなことでもない。
例え、肩に広がる彼女の髪からいい匂いがしたとしても、そんなことは初めてじゃない・・・はず、だ。

そう言いつつも、僕は彼女の香りを鼻腔に感じ落ち着かなかった。

首を伸ばしてそうっと覗き込むと、フランソワーズの瞳はぴったりと閉じられていて、本当に眠り込んでいるようだった。

 

――フランソワーズ。

このまま君とどこかへ行ってしまおうか。

 

そんな考えが脳裏をよぎる。

いつか君を攫いに来る誰かがやって来る前に、僕が君を攫ってしまったらどうだろう?
そうすれば、君を攫いに来る誰かとはイコール僕にならないだろうか。

そんなにうまくはいかないだろうか?

フランソワーズは嫌がるだろうか。

でも、嫌がろうがどうしようが攫ってしまえば、きっといつかは――


――だめだ。


そんなこと、できるわけがない。

許されない。

何より、誰より僕自身が自分を許せないだろう。

フランソワーズは僕の手の届かない女の子なのだから。
だから、大切に大切に――守って、そうしていつか来る誰かに渡すのだ。

その日を思うと、今から胸がつぶれそうになるけれど、フランソワーズの幸せを願うなら、一日でも早くその日が来るよう願うしかない。

 

――だけど。

 

だけど、今は。

 

今、フランソワーズはここにいて。

僕の隣で眠っていて。

そして僕は――幸せなのだ。

 

 


いつかこの日も思い出になってゆくのだろう。

その時、僕はどんな思いでこの日を振り返るのだろう。

 

フランソワーズはその時も僕の隣にいるだろうか。

 

・・・いないだろう。

 

たぶん。

 

きっと。

 

――それでも。

 

たぶん、その時の僕はきっと幸せだ。
思い出のなかで、フランソワーズは僕の隣にいるのだから。