新ゼロ
2016 バレンタインデー

 

 

「……手作りチョコ」
「あら、なによその不思議そうな顔」


例年通りファンとの集いを終えて帰って来たジョーを待ち受けていたのは、これまた例年通りフランソワーズのチョコレートであった。
両手に提げたチョコレート入りの紙袋を置くと、ジョーはフランソワーズからチョコレートを受け取った。
箱入りではない。皿に並べてある。

「さあ、どうぞ」
「……何が入ってるの」
「愛情に決まってるでしょ」

そうだろうと思った。これも例年通りの答えである。
しかしジョーが聞きたい答えではない。具体的に何が入っているのかを知りたいのだ。
が、フランソワーズは期待に満ちたマナザシをこちらに向け続けている。おそらく食べない限りもう何も言わないだろう。
ジョーは仕方なくチョコレートをひと粒手に取った。
いったい中身はなんだろうとおそるおそる口に入れる。

「どう?美味しい?」
「ん……んんっ?」

し…しょっぱい。尋常じゃなくしょっぱい。これ、チョコレート……?

が、吐き出すわけにはいかなかった。
フランソワーズが作ったものなのだ。それを吐き出すなんて地球が自転をやめてもできるわけがない。

「美味しい?」

いや、どちらかというと美味しくない。
これはもしかしたら何かの罰ゲームなのか?

ジョーは突然己に課せられた苦行に記憶を辿った。何かフランソワーズの逆鱗に触れるようなことをしただろうかと。しかし心当たりは全くなかった。

「ね、ジョー。どう?」
「う、ううん……これ、塩が入っているよね…?」
「ええ、そうなの。ちょっとの塩味が甘さを引き出すのよ」

ちょっと?

ちょっとの塩味。これが?

しかし今、ジョーの口の中にあるのは岩塩の塊だった。舌の上でいっこうになくなる気配を見せない。
なぜこうなった。罰ゲームじゃないならいったいなんだ。

「ね、ジョー。美味しい?」

美味しくない。が、そうは言えない。
言えないがフランソワーズの追求は続く。

面倒になったジョーはフランソワーズの肩を引き寄せると有無を言わせず唇を重ねていた。

ヤダ、ジョー、しょっぱい!とフランソワーズが身を退くまで。