「まだ秋じゃない」
「秋がきたから、飽きがきた・・・って、日本人の考えることって凄いなあ。なあ、これってダジャレってやつか?」 わくわくした様子のジェットに、ジョーはうんざりして答えた。 「親父ギャグってやつとは違うんだろう?」 その熱意たるや、レポートを提出するのではないかという勢いである。 「だから。僕だって知らないよ、そんなの」 ソファにもたれてだらだらしていたジョーは体を起こした。 「アイツって誰っ」 それって誰なんだよと普段の彼なら言っただろう。 「・・・なんだ?変なヤツ」 **** 「秋と飽きるをかけるのね。なるほど」 フランソワーズは自室にいた。テーブルに雑誌を広げている。 「・・・別れましょう。秋だから。だって飽きちゃったんだもの。あなたに」 声に出して言ってみる。 「だって飽きちゃったんだもの。秋だから」 練習するみたいに繰り返したところで、ゆらりと部屋に入ってきたものがいた。 「あらジョー。ノックくらいしてちょうだい」 さらりと言うフランソワーズにジョーは目を細くした。 「いいや。わかってない」 フランソワーズはちょっと考えて、 「・・・ジョー。秋だから飽きちゃったわ」 と言った。 「だーかーらー」 ジョーは低い声で呻いた。 今まで出会い頭にいきなり言われたものはたくさんある。 「日本語って奥が深いのね」 フランソワーズはジョーをじいっと見た。 「・・・ジョーったら。飽きるわけないでしょう」 「だってまだ夏だもの!」 ジョーはがっくりと肩を落とした。 くるくる色が変わる蒼い瞳にジョーが安心する日はまだまだ遠かった。
「知らない」
ここのところ、「日本の文化・ダジャレ」に興味を持ちすぎているジェットである。
何か見つけるとジョーに持ってきて検証させるのだった。
「そうかあ?季節感あるわねって笑ってたけどな、アイツ」
「え!」
「お前のスイートハート」
だがしかし。
今日のジョーは違っていた。
顔色を変えると、スイートハートの名を呼びつつ部屋を出ていってしまった。
開いたページは「別れを告げる時の言葉」特集であった。
ジョーだった。
「・・・あのさ。それってギャグでもダジャレでもないからな」
「ええ。わかってるわ」
「失礼ね。わかってるわよ。川柳とかいうものでしょう?」
「違う」
「じゃあ、俳句」
「違う」
「だって季語も入っているじゃない。綺麗な感じにまとまっているわ」
「だからだよ」
「なにが?」
「言われた側のショックははかりしれないってこと」
「あら、そうなの?」
「うん。だから言うな」
初めは真に受けて落ち込んだものだったが、何度か経験するうちに彼女は意味を知らずに使っていることがわかってきた。だから、自分がダメージを受ける前に、彼女にちゃんと意味を説明し、不用意に言わないよう釘をさすことにしているのである。
「別に深くないよ。それに、飽きた理由が秋がきたからなんて嫌だ」
「ジョーのことじゃないのに」
「それでも嫌な気分になるから嫌だ」
必死のような、怒っているような、心配しているようなジョーの顔。
「フランソワーズ」
だからそういう意味じゃなくてっ・・・
わかって言っているのかそうではないのか。