「まだ秋じゃない」

 

 

「秋がきたから、飽きがきた・・・って、日本人の考えることって凄いなあ。なあ、これってダジャレってやつか?」
「知らない」

わくわくした様子のジェットに、ジョーはうんざりして答えた。
ここのところ、「日本の文化・ダジャレ」に興味を持ちすぎているジェットである。
何か見つけるとジョーに持ってきて検証させるのだった。

「親父ギャグってやつとは違うんだろう?」

その熱意たるや、レポートを提出するのではないかという勢いである。

「だから。僕だって知らないよ、そんなの」
「そうかあ?季節感あるわねって笑ってたけどな、アイツ」
「え!」

ソファにもたれてだらだらしていたジョーは体を起こした。

「アイツって誰っ」
「お前のスイートハート」

それって誰なんだよと普段の彼なら言っただろう。
だがしかし。
今日のジョーは違っていた。
顔色を変えると、スイートハートの名を呼びつつ部屋を出ていってしまった。

「・・・なんだ?変なヤツ」

 

****

 

「秋と飽きるをかけるのね。なるほど」

フランソワーズは自室にいた。テーブルに雑誌を広げている。

「・・・別れましょう。秋だから。だって飽きちゃったんだもの。あなたに」

声に出して言ってみる。
開いたページは「別れを告げる時の言葉」特集であった。

「だって飽きちゃったんだもの。秋だから」

練習するみたいに繰り返したところで、ゆらりと部屋に入ってきたものがいた。
ジョーだった。

「あらジョー。ノックくらいしてちょうだい」
「・・・あのさ。それってギャグでもダジャレでもないからな」
「ええ。わかってるわ」

さらりと言うフランソワーズにジョーは目を細くした。

「いいや。わかってない」
「失礼ね。わかってるわよ。川柳とかいうものでしょう?」
「違う」
「じゃあ、俳句」
「違う」
「だって季語も入っているじゃない。綺麗な感じにまとまっているわ」
「だからだよ」
「なにが?」
「言われた側のショックははかりしれないってこと」
「あら、そうなの?」
「うん。だから言うな」

フランソワーズはちょっと考えて、

「・・・ジョー。秋だから飽きちゃったわ」

と言った。

「だーかーらー」

ジョーは低い声で呻いた。

今まで出会い頭にいきなり言われたものはたくさんある。
初めは真に受けて落ち込んだものだったが、何度か経験するうちに彼女は意味を知らずに使っていることがわかってきた。だから、自分がダメージを受ける前に、彼女にちゃんと意味を説明し、不用意に言わないよう釘をさすことにしているのである。

「日本語って奥が深いのね」
「別に深くないよ。それに、飽きた理由が秋がきたからなんて嫌だ」
「ジョーのことじゃないのに」
「それでも嫌な気分になるから嫌だ」

フランソワーズはジョーをじいっと見た。
必死のような、怒っているような、心配しているようなジョーの顔。

「・・・ジョーったら。飽きるわけないでしょう」
「フランソワーズ」

「だってまだ夏だもの!」


だからそういう意味じゃなくてっ・・・

ジョーはがっくりと肩を落とした。
わかって言っているのかそうではないのか。

くるくる色が変わる蒼い瞳にジョーが安心する日はまだまだ遠かった。