「ジョーの前髪がくすぐったい」
ジョーの右腕はフランソワーズを抱き寄せるように彼女の背に回されていた。 ジョーはちょっと眉間に皺を寄せるとほんの少し上方に体をずらせた。 しかし。 「鼻息がかかるぅ」 それこそ鼻にかかった声で言われ、ジョーはしぶしぶ目を開けた。
と言われた。 そして。 「……これでいい?」 再びきっぱりと言われ、息をついた。 「フランソワーズ。きみ、眠ってるんじゃなかったのかい?」 半分ってどういう状態だよ。 と思ったが声には出さず、目をつむったままのフランソワーズを見た。 「じゃあ、……」
そうして左手をフランソワーズの肩の下に入れてそのまま自分の胸の上に抱き締めた。男の胸を枕にするなんて、さぞや窮屈で寝にくいだろう。 「フランソワーズ。起きてるんだろ」 だから、半分ってなんなんだよ。 そう思ったものの、フランソワーズが自分の胸の上ですっかり落ち着いてしまったので、ジョーは何か言う代わりに彼女の髪を撫でた。 「……ふふっ」 フランソワーズが鼻をすりよせる。 きっといつか、このフランソワーズの頭の重さがないと落ち着かなくなる日がくるのだろう。
いつか。
たぶん。
ジョーが目を閉じようとしたところで、フランソワーズが軽く向きを変えた。
小さく言って、しっかりと胸の上に抱き締め直した。
「いつか」は今日だった。
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