「甘え上手」

 

 

「ジョーの前髪がくすぐったい」


おでこをくっつけるようにして寝ていたら、そう言われた。
お互いに横向きで向かいあって。

ジョーの右腕はフランソワーズを抱き寄せるように彼女の背に回されていた。

ジョーはちょっと眉間に皺を寄せるとほんの少し上方に体をずらせた。
これでおでことおでこはくっつかないから、ジョーの前髪がフランソワーズの鼻をくすぐることもない。

しかし。

「鼻息がかかるぅ」

それこそ鼻にかかった声で言われ、ジョーはしぶしぶ目を開けた。
フランソワーズの顔はジョーの鼻の下あたりにあったから、ジョーが呼吸するたびに確かに鼻息がかかるだろう。
じゃあ、とくるりと背を向けようとしたら、


「ヤダ」

と言われた。
だからジョーは、反転するかわりに仰向けになった。

そして。

「……これでいい?」
「イヤ」

再びきっぱりと言われ、息をついた。

「フランソワーズ。きみ、眠ってるんじゃなかったのかい?」
「半分、眠ってるわ」

半分ってどういう状態だよ。

と思ったが声には出さず、目をつむったままのフランソワーズを見た。

「じゃあ、……」


ちょっと考えて。

そうして左手をフランソワーズの肩の下に入れてそのまま自分の胸の上に抱き締めた。男の胸を枕にするなんて、さぞや窮屈で寝にくいだろう。
ジョーはいつもそう思うのだったが、フランソワーズは気に入っているようだった。
現に今も、嬉しそうに口許に笑みを浮かべている。

「フランソワーズ。起きてるんだろ」
「半分だけよ」

だから、半分ってなんなんだよ。

そう思ったものの、フランソワーズが自分の胸の上ですっかり落ち着いてしまったので、ジョーは何か言う代わりに彼女の髪を撫でた。

「……ふふっ」

フランソワーズが鼻をすりよせる。
なんだよ、やっぱり起きてるんじゃないかと思いつつ、この体勢にだんだん慣れてきたジョーだった。

きっといつか、このフランソワーズの頭の重さがないと落ち着かなくなる日がくるのだろう。

 

いつか。

 

たぶん。

 

ジョーが目を閉じようとしたところで、フランソワーズが軽く向きを変えた。
胸枕から腕枕になる。


「!」


ジョーはぱっちりと目を開けた。


「フランソワーズ。そっちじゃないよ」

小さく言って、しっかりと胸の上に抱き締め直した。

 

 

「いつか」は今日だった。

 

 




背景のイラストはみなっちかっぱ様より頂いたものです。
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