背後から抱き締められた。物凄い力で。
それが、誰であろう009だと――ジョーだというのがわかったのは刹那。
「イヤよ。離して!」
けれども腕は緩まない。
「――本当に、平気だった?」
「え、何言って・・・、離して」
「答えて。フランソワーズ」
抱き締めたまま耳元で言うジョー。腕は緩まない。
「僕が、誰とどうしようがきみは・・・平気?」
「・・・そう言ったわ」
「だから。あの時言ったのって、本当?」
「ええ。本当よ」
「僕が誰とどうなっても、きみは本当に平気なのかい?」
「そ・・・」
それは。
「――僕は平気じゃない」
「え?」
「平気じゃなかったから、わざと――やけくそみたいに王女と仲良くした」
「・・・」
「そうしたら、きみが妬いてくれると思ったから」
フランソワーズは何も言わない。
「なのに、どんな風にしてもきみは少しも妬いてはくれなくて。――さっきだって、さっさと帰ってしまうし。少しも僕と一緒に居てくれない。王女が僕の世話をやいても全然平気みたいに」
ジョーの腕に力がこもる。
「きみにとって僕なんか――どうでもいい存在?」
「そんなことないわ」
「でも、嫌いって言った」
「――聞いてたの!?」
フランソワーズが席を立ったのを知っていて、そして心配して後を追ったのだという。
そして、デッキに着いたら「嫌い」と言われ、かっとなって思わず――抱き締めていた。そういうことらしい。
「聞いてたよ。ね。フランソワーズ。本当に僕のことが嫌い?嫌いになった?」
「えっ・・・」
嫌いになったかと訊かれれば、答えはもちろんノーである。が、今はイエスだったから、フランソワーズはジョーの問いに答えられない。彼にこんな心の機微がわかるはずがない。
「ね。フランソワーズ」
頬を摺り寄せるジョーの吐息がかかり、頬が熱くなる。
「僕が――嫌い?」
ジョーはずるい。
いつも、大事なことを訊くときはこうして抱き締めて甘い声で言う。
フランソワーズがそれに屈してしまうことを知り尽くしている。
だから。
「・・・ええ。嫌い、よ」
今日は声に出して言ってみた。
「嘘だろ」
「本当よ」
「どうして」
「何が?」
「どうして・・・僕のどこが嫌い?」
「――全部」
「嘘つけ」
「だから、本当よ」
「そんなの信じられないよ」
「だって嫌いだもの」
「嘘だ」
「嫌いよ」
「嘘だ」
「嫌い」
「嘘にきまってる」
「本当に、きら――っ・・・」
――嫌いになれたら、どんなにラクだろう?
「フランソワーズ?」
ジョーの腕が緩み、フランソワーズの顔を正面から見つめた。
ああ、キスするつもりね・・・と、頭の隅で思った。
彼がこうする時は、このあとキスするはずだったから。いつも。
でも。
「・・・ジョー?」
褐色の瞳は濡れていて。
痛みを堪えるようなジョーの顔。
「どうしたの?」
「・・・どうもしないよ」
「嘘。だって・・・」
泣いているじゃない。
「フランソワーズ。――お願いだ」
僕を嫌いにならないでくれ。――いや、嫌いでもいい、でもそれを僕に告げないでくれ。
「――ジョー」
どうしてやきもちやかないと不安になるの?嫌いだなんて本気で言うわけないじゃない。
「ね。フランソワーズ」
「嫌い――なわけ、ないでしょう」
「・・・本当に?」
「本当よ」
「絶対?」
「好きよ。ジョー」
「うん・・・僕も」
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