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ジョーの足取りは弾んでいた。何しろ、今日は「おうちにフランソワーズと彼女の作ったゴハン」が待っているのだ。 「ただいまっ」 いつもより弾んだ自分の声が少し恥ずかしい。 「おかえりなさーいっ」 というフランソワーズの声も弾んでいるように聞こえ、これで帳消し、おあいこだなとにんまりした。 「時間通りね、ジョー」 さっき電話したのだった。 「うん。お腹すいた・・・・・わあっ!!」 ジョーは靴を脱ぐために屈んでいたが、フランソワーズの声が近くでしたので顔を上げ――次の瞬間、加速したかのような速度で後ずさり、玄関のドアに背中をぴったりとつけていた。 「ふっ、ふっ、ふらっ・・・!」 ジョーはこれ以上後ろに下がれないのが悔しそうに、ただただ玄関ドアに張り付いている。 「どうしたの?」 きょとんと見つめる蒼い瞳。 「どう、ってどう、って、そっちこそ、どうっ・・・っ!」 舌がもつれて思わず咳き込む。 「ああもう、ジョーったら。落ち着いて?」 ジョーの大声にわざとらしく両手で耳を覆ったフランソワーズは、つんと唇を尖らせた。 「もうっ。さっきから何なのよ」 ジョーは全身汗びっしょりだった。不覚にも指先が震える。 「ジョー?」 フランソワーズはジョーへと伸ばした指を空中で止めた。 「だって、ジョー好きでしょう?こういうの」
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「好きじゃないよっ!!」 ジョーはやっと顔を上げた。けれども直視できない。が、それでも前髪の間からちらちらと見てしまうのは男の性なのだろうか。 ジョーはみぞおちが痛くなってきた。 「ジョー?」 しょんぼりと肩を落とす。自分の爪先を見つめて。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・好きだよ」 ぼそり、と呟く。 「――ほんとっ?」 小さい声で言ったのに、彼女は絶対に聞き逃さない。 「・・・・・ああ」 むしろ、すごーく簡単じゃないのか?とジョーは思う。が、口には出さない。 「そうよ。工夫が必要なんだもの」 ジョーはいま一度、目の前の彼女を見つめた。が、どこをどう見ても工夫が必要な凝った姿とは思えなかった。 「そう、工夫よ!ここにあるもので何とかしなくちゃいけなかったんだもの」 簡単じゃ、ないのか・・・・? 本来なら、彼女がなぜそんな格好で自分を出迎えたのか、そちらの疑問を優先させるべきであったが、ジョーは混乱していた。していたがために、その大問題はとりあえず許容し、彼女が「工夫が必要だった」という目の前の姿に焦点を絞る。 「ふら」 ジョーが言いかけたところへフランソワーズの声が被る。 「んん!もしかしてジョー、誤解してるでしょ?」 だって、どう見てもそうじゃないか。 ジョーは今や真正面から彼女を凝視していた。 「似合う?」 こういう格好に似合うとか、似合わないとかあるのだろうか? 「その下は、裸じゃ・・・・」 改めて言うと、やはり普通じゃないこの状況が強調され、ジョーは頭の中が熱くなった。このまま倒れるかもしれない。 「裸?」 フランソワーズは腰に当てていた手を解いて、エプロンの裾をちょいと持ち上げた。 「うわっ!!フランソワーズっ、なにをっ・・・・」
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