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「ジョー?大丈夫?」 玄関ドアにもたれて座り込んでいるジョーの肩にそうっと手をかける。けれどもジョーは立てた膝に顔を埋めたまま、びくとも動かない。 「ジョー?泣いてるの?」 顔を覗きこむようにしても、ジョーは膝頭に額を押し付けたまま動かない。 「・・・たいく座りが好きね?」 ジョーの顔が上がった。 「僕はそんなこと頼んでない!」 エプロン姿のフランソワーズ。が、しかし、その身体にはソレしか身につけていないように見える。今も、どう見てもそうとしか見えなかった。 「どこで憶えたんだ、そんな格好」 にっこり笑むフランソワーズに、ジョーは再びがっくりとうなだれた。 シンプルな生成りのエプロン。およそ色っぽさとは無縁の代物だった。なぜエプロンに色気を求めなければならないのか疑問だったが。 「裸エプロン、って言うんでしょう?タイヘンだったわ。だって、まさか本当に裸になるわけにいかないじゃない。そんなの恥ずかしいもの。だから考えたの。どうやったらそう見えるかしら、って。でも、ここはジョーのうちでしょ?私の服なんてほんのちょっとしか置いてないから、本当に考えたわ――夏に置いていったショートパンツがなかったら下着姿だったもの。でもね、トップスは一見お洋服に見えるけど本当は下着なの。あ、見えてもいい仕様になっているから大丈夫。肩紐が外せるようになっててね、今日たまたまこれを着て来ていたから・・・・あら?ジョー?気分でも悪い?」 誰が!? と言おうと顔を上げたものの、至近距離から見つめるフランソワーズと目が合い黙った。 「――と、ともかくっ」 自分の膝に手をかけて目の前に座り込んでいたフランソワーズに目もくれず立ち上がる。 「早く着替えてきてくれ」 頬を膨らませ、唇を尖らせてフランソワーズが立ち上がった。 「せっかく着たのに。ただのエプロンよ?」 ふうん・・・とフランソワーズはジョーの顔を見つめた。 「なんだ?」 ジョーは頬を染めたまま何も言わない。あさっての方を向いてただ無言でいる。 「良かった、ドキドキするのね?」 フランソワーズは満面の笑みでジョーを抱き締めた。 「なっ、何をっ」 勝ち? 勝ち、って何の? 「だって!」 ジョーの胸に頬を摺り寄せたままフランソワーズは続ける。 「いっつも私ばっかりドキドキしてるんだもの、ずるいわ。悔しいじゃない!たまにはジョーも、たくさんドキドキしてくれなくちゃイヤ!」
ジョーは手持ち無沙汰だった両手をそっとフランソワーズの肩に回した。 「――全く。何を言い出すのかと思ったら・・・」 僕がドキドキしてない、だって? 「フランソワーズ。僕をこれ以上ドキドキさせてどうする気?・・・死んじゃうよ」
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