―5―

 

「ジョー?大丈夫?」

玄関ドアにもたれて座り込んでいるジョーの肩にそうっと手をかける。けれどもジョーは立てた膝に顔を埋めたまま、びくとも動かない。

「ジョー?泣いてるの?」

顔を覗きこむようにしても、ジョーは膝頭に額を押し付けたまま動かない。

「・・・たいく座りが好きね?」
「うるさいっ」
「そんなにびっくりしたの?」
「・・・・・・・それを狙ってたくせに」
「あら、人聞きの悪いこと言わないでくれる?せっかく、あなた好みに演出したのに」
「演出っ!?」

ジョーの顔が上がった。

「僕はそんなこと頼んでない!」
「ええ、そうね?」
「どうしてそう余計なコトっ・・・」
「喜んでくれるかと思ったのに」

エプロン姿のフランソワーズ。が、しかし、その身体にはソレしか身につけていないように見える。今も、どう見てもそうとしか見えなかった。

「どこで憶えたんだ、そんな格好」
「秘密」

にっこり笑むフランソワーズに、ジョーは再びがっくりとうなだれた。

シンプルな生成りのエプロン。およそ色っぽさとは無縁の代物だった。なぜエプロンに色気を求めなければならないのか疑問だったが。
そして、その下には一見何も着ていないように見える。
が、実はそうではなく、ショートパンツとチューブトップを着ていたのだった。
断じて裸ではない。

「裸エプロン、って言うんでしょう?タイヘンだったわ。だって、まさか本当に裸になるわけにいかないじゃない。そんなの恥ずかしいもの。だから考えたの。どうやったらそう見えるかしら、って。でも、ここはジョーのうちでしょ?私の服なんてほんのちょっとしか置いてないから、本当に考えたわ――夏に置いていったショートパンツがなかったら下着姿だったもの。でもね、トップスは一見お洋服に見えるけど本当は下着なの。あ、見えてもいい仕様になっているから大丈夫。肩紐が外せるようになっててね、今日たまたまこれを着て来ていたから・・・・あら?ジョー?気分でも悪い?」
「・・・・・・」
「それとも、感激してるの?」
「だっ」

誰が!?

と言おうと顔を上げたものの、至近距離から見つめるフランソワーズと目が合い黙った。
もはや嘆いているのか、喜んでいるのか、自分で自分がわからない。彼女の言う通り感激しているのかもしれなかったが、そう思う自分が情けなくて泣けてくる。

「――と、ともかくっ」

自分の膝に手をかけて目の前に座り込んでいたフランソワーズに目もくれず立ち上がる。

「早く着替えてきてくれ」
「・・・工夫したのに」
「ダメだ」

頬を膨らませ、唇を尖らせてフランソワーズが立ち上がった。

「せっかく着たのに。ただのエプロンよ?」
「ダメだ。落ち着かない」
「・・・落ち着かない?」

ふうん・・・とフランソワーズはジョーの顔を見つめた。

「なんだ?」
「落ち着かないんだ?」
「・・・・・うるさいな」
「この格好、ドキドキしちゃうんだ?」

ジョーは頬を染めたまま何も言わない。あさっての方を向いてただ無言でいる。

「良かった、ドキドキするのね?」

フランソワーズは満面の笑みでジョーを抱き締めた。

「なっ、何をっ」
「やったわ!私の勝ちね!」

勝ち?

勝ち、って何の?

「だって!」

ジョーの胸に頬を摺り寄せたままフランソワーズは続ける。

「いっつも私ばっかりドキドキしてるんだもの、ずるいわ。悔しいじゃない!たまにはジョーも、たくさんドキドキしてくれなくちゃイヤ!」
「ど、どきどき、って」
「そうじゃないと、私ばっかり好きみたいで悔しいんだもの!」

 

ジョーは手持ち無沙汰だった両手をそっとフランソワーズの肩に回した。
そうして、大きく息を吐き出す。

「――全く。何を言い出すのかと思ったら・・・」

僕がドキドキしてない、だって?
冗談じゃない。
いつも――いつだって、きみが目の前にいるだけでドキドキしているのに。

「フランソワーズ。僕をこれ以上ドキドキさせてどうする気?・・・死んじゃうよ」