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「――ねぇ、ジョー?」 食事中であった。向かい合って座り、黙々と夕食を食べている。 「おかわりは?」 差し出されたお皿を受け取り、よそってまたジョーに渡す。 「美味しい?」 フランソワーズはテーブルの上に両肘をついて、組んだ手の上に顎をのせ、軽く首を傾げてじっとジョーを見つめている。 「・・・何?」 彼女の視線が絡み付いて、ジョーはなんだか落ち着かない。 「見てるの」 けほ、っとジョーがむせた。 「あらら、大丈夫?」 ジョーは水を一気に飲むとコップを置いた。 「・・・フランソワーズ」 じっと見つめる蒼い瞳。きらきらしてうっとりとして。清楚なようでいて、その奥は妖艶な色を湛えて。 「・・・・その」 フランソワーズの視線を受けて、ジョーの頬がほんのり染まる。 「――さっきの格好だけど」 軽く咳払いをして、頬を引き締める。 「いったいどこで知ったんだい?」 即答するフランソワーズは、今はちゃんと服を着ている。ジョーの懇願に負けて着替えたのだった。 「どうして僕が、その、ああいうのが好きだと思ったんだい?」 眉間に皺を寄せ、ジョーが考え込む。が、フランソワーズはただにっこり笑んだだけで答えない。 「いったい、どんな?」 昼間見たDVDは、元通りダンボール箱に収めて封をしてクローゼットの奥に戻してある。 「――あのさ」 真剣な表情で言い出したジョーに、慌ててストップをかける。 「そんな事、思ってないわ」 真っ赤になって、やめてよと叫ぶ。 「そうじゃないわっ、私はただっ・・・」 ジョーにドキドキしてもらいたかったの。と蚊の鳴くような声で続ける。 「――ふうん?」 形勢逆転。 「確かに、じゅうぶんドキドキさせてもらったよ」 にやにや笑いを消して、009の顔になる。 「・・・はい」 両手を膝の上に置き、神妙な顔で返事をする。 「今度する時は、ああいうズルは無しにしてくれ」 答えてから、慌てて訊き直す。 「ダメだよ、ちゃんとしてくれなくちゃ。僕だって対応の仕方が変わってくる」 意味がわからない。 「どうせやるなら、本気のちゃんとした仕様にしてくれないと困る」 それはつまり、つまりそれって?! 「そうすれば、僕だってちゃんと本気で対応できるのに」 小さくジョーが耳元で囁く。 「下に服を着てるなんてズルはダメだ」 背中からフランソワーズの肩に両手を回して抱き寄せて。 「まぁ、今日は不意うちだったから仕方ないけどさ。――新鮮な驚きだったよ」 フランソワーズはまだ混乱している。真っ赤にゆだったまま声が出ない。 「ただし、――ほかでは絶対にやっちゃダメだよ?」 小さく小さく頷いて。 「――そんなわけで、フランソワーズ?」 訝しげに見上げるフランソワーズに微笑みながら、ジョーは当然のように彼女を椅子から立たせ、そうして――肩に担ぎ上げた。 「ちょっ、ジョー?」 今日はおうちにフランソワーズと彼女の作ったごはんが待っている――あ、違うな。今日はおうちにゴハンが待っている。が、正しい。 「――いただきます」
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