―6―

 

 

「――ねぇ、ジョー?」
「うーん?」

食事中であった。向かい合って座り、黙々と夕食を食べている。

「おかわりは?」
「うん。もらう」

差し出されたお皿を受け取り、よそってまたジョーに渡す。

「美味しい?」
「うん」

フランソワーズはテーブルの上に両肘をついて、組んだ手の上に顎をのせ、軽く首を傾げてじっとジョーを見つめている。

「・・・何?」

彼女の視線が絡み付いて、ジョーはなんだか落ち着かない。

「見てるの」
「何を」
「ジョーを」

けほ、っとジョーがむせた。

「あらら、大丈夫?」

ジョーは水を一気に飲むとコップを置いた。

「・・・フランソワーズ」
「なあに?」
「今日のきみ、ちょっと変だよ」
「そうかしら?」
「うん。なんていうか、こう・・・」
「ん?」

じっと見つめる蒼い瞳。きらきらしてうっとりとして。清楚なようでいて、その奥は妖艶な色を湛えて。

「・・・・その」

フランソワーズの視線を受けて、ジョーの頬がほんのり染まる。

「――さっきの格好だけど」

軽く咳払いをして、頬を引き締める。

「いったいどこで知ったんだい?」
「秘密」

即答するフランソワーズは、今はちゃんと服を着ている。ジョーの懇願に負けて着替えたのだった。

「どうして僕が、その、ああいうのが好きだと思ったんだい?」
「傾向と対策をしたの」
「・・・傾向と対策?」

眉間に皺を寄せ、ジョーが考え込む。が、フランソワーズはただにっこり笑んだだけで答えない。

「いったい、どんな?」
「内緒」
「フランソワーズ」
「いいの、ジョーは知らなくて」

昼間見たDVDは、元通りダンボール箱に収めて封をしてクローゼットの奥に戻してある。
あれだけジョーが驚いてくれたんだから、今日は有意義な一日だったわ・・・とフランソワーズは思う。

「――あのさ」
「なあに?」
「・・・別に、ああいう格好をしなければいけないくらい、僕たちってマンネリだとは思わないけど」
「え?」
「刺激が欲しいんだったら、そう言ってくれれば僕だって」
「ち、ちょっと待って」

真剣な表情で言い出したジョーに、慌ててストップをかける。

「そんな事、思ってないわ」
「そう?物足りないとか、刺激がないとか、」
「思ってないってば!」

真っ赤になって、やめてよと叫ぶ。

「そうじゃないわっ、私はただっ・・・」

ジョーにドキドキしてもらいたかったの。と蚊の鳴くような声で続ける。

「――ふうん?」

形勢逆転。
ジョーは頬杖をついて、にやにやしながらフランソワーズを観察している。

「確かに、じゅうぶんドキドキさせてもらったよ」
「そ、それはっ・・・良かった、わ」
「だけどね、フランソワーズ」

にやにや笑いを消して、009の顔になる。
フランソワーズは、たった今の今まで漂っていた恋人同士の空気がさっと緊張するのを感じた。
ただのじゃれあいなのに。なのに、ジョーは突然真剣になった。

「・・・はい」

両手を膝の上に置き、神妙な顔で返事をする。

「今度する時は、ああいうズルは無しにしてくれ」
「はい。――えっ?!」

答えてから、慌てて訊き直す。
どんな厳しい説教が始まるかと覚悟したのに、彼の言葉は想像していたものと掛け離れていた。ので、咄嗟に何を言われたのかわからない。

「ダメだよ、ちゃんとしてくれなくちゃ。僕だって対応の仕方が変わってくる」
「えっ?えっ?」

意味がわからない。
ひとり混乱しているフランソワーズをそのままに、ジョーはごちそうさまと立ち上がるとテーブルをぐるりと回ってフランソワーズの背後に立った。
そのまま屈んで彼女の耳元に唇を寄せる。

「どうせやるなら、本気のちゃんとした仕様にしてくれないと困る」
「えっ、やるって何をっ・・・」
「――裸エプロンさ、もちろん」
「えっ、本気、って、ちゃんと、って・・・えええっ!?」

それはつまり、つまりそれって?!

「そうすれば、僕だってちゃんと本気で対応できるのに」

小さくジョーが耳元で囁く。

「下に服を着てるなんてズルはダメだ」

背中からフランソワーズの肩に両手を回して抱き寄せて。

「まぁ、今日は不意うちだったから仕方ないけどさ。――新鮮な驚きだったよ」

フランソワーズはまだ混乱している。真っ赤にゆだったまま声が出ない。

「ただし、――ほかでは絶対にやっちゃダメだよ?」
「・・・わかったわ」

小さく小さく頷いて。
やっと答えたフランソワーズに満足そうに微笑んだジョーは、さてと、と腰を伸ばした。

「――そんなわけで、フランソワーズ?」
「はい?」

訝しげに見上げるフランソワーズに微笑みながら、ジョーは当然のように彼女を椅子から立たせ、そうして――肩に担ぎ上げた。

「ちょっ、ジョー?」
「ゴハン第二弾開始」
「ごはんんん?」
「そっ」

今日はおうちにフランソワーズと彼女の作ったごはんが待っている――あ、違うな。今日はおうちにゴハンが待っている。が、正しい。
うん。
おうちでゴハン。
なんて良い響きだろう?

「――いただきます」