Happy Holiday
あなたには「家」という概念が無いのね。
強いていえば・・・「仲間」の居る所が、あなたにとっての「家」。
「帰るんだ。みんなのところへ」
そう強く言われた時にわかった。
「家庭」を知らずに育ったあなた。
だからむしろ、「仲間」と居る非日常そのものが、あなたにとっては「家族と居る日常」なのかもしれない。
哀しいひと。
とても、哀しい・・・
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飛行機事故から2週間。
私もジョーも、全身のパーツのチェックとメンテナンスを終えていた。
3度目のチェックも異常なし。
そこで博士から提案があった。
二人とも、とるはずだった休暇がだめになってしまったから、改めて休暇をとったらどうか、と。
身体は治っても、精神的なダメージがまだあるはずだから、しばらく休養が必要だと。
他のメンバーのすすめもあって、渋っていたジョーも休暇をとることになった。
けれども。
二人で顔を見合わせて困ってしまった。
だって・・・「また」二人で、旅行?
行く前だって緊張してたし、散々冷やかされたのに。
「どこか・・・出かける?」
苦笑しながらジョーが問う。
「そうねぇ・・・」
頬に指をあてて考える。
私には「パリに行く」という選択肢がある。
でも・・・この前、一緒にパリに行った時はジョーを困らせてしまったし。
「きみはパリに帰ったらどうかな」
「え・・・」
優しいけれど、どこか哀しい瞳。
「どうして?」
「この前も慌しく帰ってきてしまったし。少しゆっくりしてきたらいいんじゃないかと思って」
「・・・あなたはどうするの?」
「うーん」
ソファによりかかり、伸びをする。
「久しぶりに帰ろうかな」
「帰る?」
「そ。」
帰る、って・・・どこへ?
「僕に家があるのってそんなに不思議?」
くすっと笑っていたずらっぽく言う。
「う、ううん。不思議じゃないわ。――そうよね。あるわよね、家・・・」
ジョーの家。
なんだか不思議な感じがする。そぐわないというか。
「一年のうち、数えるくらいしか帰らないからなぁ」
「・・・ね。ジョー?」
「うん?」
「私も行ったらダメかしら」
「えっ」
もたれていたソファから身を起こす。
「ダメ?」
「いや、ダメって事はないけど」
「じゃ、決まりね」
立ち上がる。
「何時ごろ出発?」
「え・・・と」
「じゃ、一時間後にしましょう」
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フランソワーズが軽やかに出て行ったリビングのドアを呆然と見つめる。
僕の家にフランソワーズが来る?
何だかとてつもなく恐ろしい事のような気がした。
大体、いま自分の家の惨状を思い浮かべようとしてもその記憶すら曖昧なのだ。
雑誌が散らばっているリビングとか。
洗濯物が散乱しているランドリールームとか。
毛布とシーツが半分以上ベッドから滑り落ちている寝室とか。
断片的にフラッシュバックする。
そんなトコロに連れて行く?フランソワーズを?
うわー。
この前帰ったのはいつだった?
必死で記憶を探る。
・・・パリに行く前だったかな・・・?
確か、夜中にふらりと出て・・・それっきりだったような気もする。
文字通り、顔から血の気が引いた。
とてもフランソワーズを連れて行けるような場所ではない。
――そうだ。
途中でどこか他の場所へドライブすることにしよう。運転するのはこの僕なんだし。
そして、彼女の好きそうな所へ行って、帰ってくればいい。
うん。そうしよう。
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ジョーがリビングで悶絶している時、フランソワーズも自分の部屋で途方に暮れていた。
勢いであんな事言っちゃったけど、どうしよう?
部屋の中にはバッグや服が散乱している。
ジョーの家に行く。って事は・・・「お泊り」で、いいのよね?
それとも・・・日帰り?
頭の中でぐるぐる考える。
お泊りなら、着替えとか化粧品とか必要だけど・・・。
ジョーが「そういうつもり」じゃなかったら。
頬がカッと熱くなる。
ひとり大荷物を抱えている図、なんて、とてもじゃないけど恥ずかしくて顔を合わせられない。
じゃ・・・日帰りのつもりの方がいいのかしら。
――でも。
もし、ジョーが「そういうつもり」だったら。
私の小さいバッグを見て寂しそうな瞳をするわ。絶対。
頭を抱える。
ああ、それもイヤ。
いったい、どうしたら・・・