玄関を出ると、既に門の前にストレンジャーが停まっていた。
「お待たせ、ジョー」
「ん。行こうか」
お互いにお互いの顔色をこっそり窺う。
――ジョーの瞳の色は変わってないわ。荷物の事も言わないし。やっぱり大きいバッグにしなくて正解。
――可愛いなぁ、フランソワーズ。せっかく綺麗な格好しているんだから、やっぱりあんな汚い部屋になんて、とてもじゃないけど連れて行けないよ。
出発して、しばし沈黙が満ちる。
「――あ、しまった」
「どうしたの、ジョー?」
「うん。家の鍵を忘れてきてしまった」
ちら、とフランソワーズの横顔を見つめる。
「久しぶりに帰るから、うっかり忘れ」
「あら、指紋認証なんでしょう?鍵って」
被せるように言われ、言葉に詰まった。
なんでそれを知ってるんだ?
「だってジョーは、鍵を持たないひとだもの。そうかな、って思っただけ」
・・・カマかけられた・・・。
不覚。
「・・・私が家に行くの、迷惑?」
じっとこちらを見つめる蒼い瞳が揺れる。
反則だぞ、フランソワーズ。
そんな瞳をされたら断れないじゃないか。
「い、いや・・・そんな事はないよ」
あっさり敗北した。
「凄い。こんな大きな建物なんて」
赤外線反応でシャッターが開いてゆく。その先は地下駐車場だった。
ジョーのエリアは2つで、既に1台止まっていた。
「あれもジョーの車なの?」
「うん。今はもう乗って無いけどね」
オープンタイプのスポーツカー。えっと・・・名前はなんていうんだったかしら?
車を降りて、エレベーターに乗り込む。
「――そうだ」
ゆっくり上昇する中で、ジョーがくるりとこちらに向き直った。
「これから見るものに驚かないように」
これから見るもの?
「最初に言っておくけど、・・・汚いからね。かなり」
真剣な瞳。
「わかったわ」
ジョーから視線を外して、ふっと上を見ようとしたら、ぱっとジョーの大きな手で目隠しされてしまった。
「こら。言ってるそばから視ちゃダメだろ」
「そんなつもりじゃ・・・」
ジョーの手が頬に触れる。
「きっと後悔するよ」
笑いを含んだ声。
つられて笑みが浮かんでしまう。
「しないわよ。後悔なんて」
そっと唇が重なる。
いつ誰が乗ってこないとも限らないエレベーターの中で、いつもより熱いジョーのキスに応えながら。
――こういうことだったんだわ。
「二人で」どこかに行く、というのは。
ほんとうの、二人きりになる。
だからつまり・・・誰の目も気にしなくていい、という事で・・・
がくんと膝から力が抜けて、ジョーが慌てて抱きとめてくれた。
「おっと。ゴメン。ちょっとマジになったかも」
「もう・・・ジョーのばか」
小さく言って、ジョーの胸におでこをつける。ジョーの鼓動の速さに負けないくらい、私の鼓動も速かった。