洗濯が終わり、自動的に乾燥に切り替わったのを見届けたあと、再びリビングに戻る。

テーブルの上を片付け、戸棚を拭いて。
ジョーの姿はない。

ふと、戸棚の中に目がいった。
視てはいけないと思いつつも、少し開いているそこからはちらりと金色の何かが見えていた。

――何かしら?

申し訳程度に開けて覗いてみると。
そこには、たくさんの優勝カップやトロフィーが雑然と突っ込まれていた。

これって・・・レースの?
普通は飾っておくものではないのかしら。

しばし考え、首を振る。

ううん。ジョーのことだもの。誰かに見せて自慢したりとか、そういう事には興味が無いんだわ。
でも・・・せっかく、綺麗なのに。

「フランソワーズ、どうかした?」

いきなり声をかけられ、心臓が跳ねた。

「なんでもないわ」

答えつつ、戸棚を閉める。

「それより、ちゃんと片付けてるの?さぼってるんじゃないでしょうね?」
「酷いなぁ。ちゃんと働いてるよ。ホラ」

抱えたシーツと思しき布の山を見せる。

「・・・なに、ソレ」
「シーツとか」
「とか?」
「・・・色々、だよ」

色々、ねぇ・・・

「いま一回目のお洗濯中だから、むこうに持って行ってくれる?」
「うん」

ランドリールームへ向かうジョーの後ろ姿を見送って、彼の抱えている布の山の正体はいったい何かしらと考える。
もし全部シーツだとしたら・・・彼の部屋にはベッドがたくさんあるとしか思えない。
でもそんなはずはないから、だとすれば――交換したシーツをそのまま丸めて置いておいたとしか考えられなくて。
思わず身震いすると、彼の後を追いかけた。

「ジョー!」
「んっ?」

ジョーはランドリールームでシーツを広げ、振っていた。

「きゃっ。やめてやめて!」
「なんで」
「ベランダでやって!」
「ベランダで?何故?」
「だって、何がいるかわからないもの!!」

その瞬間を待っていたかのように、シーツから何かが零れ落ちた。

「いやーっ」

そのままジョーの腕に抱きついた。ぎゅっと目をつむって。

「わ、フランソワーズっ」

狭いランドリールームの中。
床には散乱したシーツの山。

そして、零れ落ちたのは――

「いやいやいやーっ」
「フランソワーズ。落ち着いて」
「だってだって、それって」

正式名称を言いたくない。

「――コレ?」

あろうことか、ジョーは手で掴んでソレを見せようとする。

「いやーっ」

ジョーの腕にぎゅうっと顔を押し付けて、自分以外のものを見たりできないようにしてしまう。

そう、いまここに居るのはジョーと私だけ。他には誰も何もいないのよっ。

呪文のように心の中で何度も唱える。

「フランソワーズ。よく見て。虫じゃないから」
「いやっ」

そんな事を言われてすっかり騙されたことは一度や二度ではなかった。

「ホントだって。ホラ」
「いやいやいやーっ」

ますますジョーの腕にしがみつく。

「だいじょーぶだってば」
「いやっ。ジョーの言うことなんて信用できないっ」
「・・・ひどいなぁ」
「いやっ。捨ててっ。早く!」
「えー。捨てるのは嫌だなぁ」
「やだっ。捨ててよーっ」

こんな汚い部屋の、澱んだ空気の中で何が棲息しているのかわかったものではなかった。
本来の部屋の主以外に住人がいるだろうことは簡単に想像できた。

もう、いやっ。もしアレだったら――

ジョーと一緒に過ごす休日は捨て難かったけれど、とはいえアレと過ごす休日は遠慮したかった。
彼と一緒にいたい気持ちと、アレと一緒にいたくない気持ちを比べれば、残念ながら後者の方が勝ってしまうのだ。

「だって、ずうっと探しててやっと見つかったんだ」

ずうっと探してた、って――何を?