「お願い、ジョー。迎えに来て」

切羽詰まったようなフランソワーズの声に、一瞬血の気が引く。

「何があった?どうしたんだ」

既にストレンジャーのエンジンは温まっている。いつでもすぐ発進できる。

「もうだめ。一歩も歩けないわ」

ケガでもしたのか?

「フランソワーズ。今どこにいる?」

まさかネオブラックゴーストに攫われたのか?
それとも、新たな敵に捕まった――?

迂闊だった。
最初からそんなことくらい気がついてなければいけなかった。
彼女を一人にしてはいけなかったんだ。

自分の迂闊さに気が遠くなりながら、唇を噛んで堪える。
今は、彼女の救出が先だ。

「ええと・・・ここはどこかしら?」
「周りに見えるものを言って」
「え、と、・・・スーパーの前なんだけど」

この辺でスーパーと言えばひとつしかなかった。
輸入品も豊富に取り揃えている大型店舗。

「わかった。そこを動くな。いま行くから」
「ええ、お願い。もう動けないの」

動けない――。

いったい何があったんだフランソワーズ!

車よりも、加速装置を使った方が数段速いが、こんな住宅地で使うわけにはいかない。
ガレージのシャッターが上がるのを待つ時間が惜しかった。
ゆっくり上がっていくそれをイライラしながら見つめ、半分上がったところで発進した。
あそこなら、車で行けば3分もかからない。

――そんな近くにいたなんて。

探したのに見つからなかった。
この辺りを何度も何度も探したのに。

まさか――捕まっていたなんて。

フランソワーズ。

きみに何かあったら僕は・・・

 

信号に引っかかった。
急いでいる時に限って引っかかる。

赤信号をイライラしながら見つめ、気が気ではなかった。

二週間前の、あの事故の時に誓ったのに。
――二度と彼女のそばを離れない、と。

なのにちっとも――守れていないじゃないか!

あんなどうでもいいケンカのせいでこんな事になるなんて。
悔やんでも悔やみきれなかった。
だけど、反省するのは後だ。
今は、フランソワーズを助けるのが先だ。

僕は焦る気持ちを抑え、青信号に変わったと同時に発進した。

焦ってはいけない。
冷静な判断をしなければ。

いつも003を救出する時はそうしていただろう?
僕は009だ。

しっかりしろ!

 

 

 

 

空が蒼い。

ぼんやりと見上げる空は高く澄んでいた。

そういえば、ジョーは私の眼の色が空と海と同じ色だと言っていた。
そして、僕は空と海の蒼が大好きなんだよ、って・・・

 

もう一歩も歩けない。

どうしたって無理だった。

 

お願い、ジョー。
早く来て。

 

ケンカしている最中なのに、来てくれるだろうか?

そう思ったけれど、ジョーはケンカしているからって無視するようなひとではない。
必ず、来てくれる。

誰よりも早く。

 

ああ、私はやっぱりジョーが好きなんだわ・・・と、改めて思った。
いつでも、どんな時でも、頼りにするのは彼しかいない。
私が窮地に陥った時は必ず助けに来てくれる。

だから、きっとすぐ――

 

耳慣れたエンジン音が聞こえて、ドアが開く音がして、そして。

「フランソワーズ!!」

大好きな声が聞こえた。