「……そう言えば、さっきの質問だけど」
「どうしてそんなこと知りたいのか、わからないけど」 うーむと唸る。 「言ったほうがいいのかなあ……でも、かっこ悪いしなあ」 ぶつぶつ口のなかで唱えている。 いま、彼の頭のなかには過去の記憶が甦っているのだろう。そして、私に伝えてもいいこととそうではないことを取捨選択している。 「うーん……これを言うとがっかりするよなあ」 私ががっかりするようなこと? 「ジョー、ま」 待って、と彼に言いかけるより早く、ジョーは言いにくそうに口を開いていた。 「……まあ、別に隠すことじゃないか。うん」 こちらを向いて、少し照れくさそうに微笑んだ。 「その……僕は他の女性とキスしたことはないんだ」 嘘だ。 「ん。その顔は疑ってるな?」 まゆみさん――が。 「うん。彼女、ね。みんな誤解しているけど、彼女とはそんなんじゃないんだよ」 昔の女……って。 「恋人でも彼女でもないよ。残念ながら。……まぁ、強いて言えば憧れのひとだったってとこかな。それだって随分昔の話だけど」 わかった?とジョーは困ったように笑った。 「だから、キスの経験ってないんだ」 ジョーは大事な思い出を話すように少し目を細めた。頬が微かに朱に染まる。 「でもそれ以外はないんだ。そういうの、男としてはどうかなって思うけどね。甲斐性の無い証明みたいだろ?」 ジョーのキスは、初心者とは思えない。 「まだ訊くのかい?……僕って信用ないんだなあ」 あははと屈託無く笑うジョー。 だからわかってしまった。 優しい笑みを浮かべているけれど、こんな質問をした私に酷く傷付いているって。 そうよね。 もしもジョーが私に同じ質問をしたら、私はどんな気持ちになっただろう?
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