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実際、動揺した。
何しろいきなりの質問だ。
『ジョーは今まで何人のひととキスしたの?』
――動揺を顔に出さないのが精一杯だった。
僕の過去。
僕がどんな風に過ごしてきたのかなんて、フランソワーズには想像すらできないだろう。
だから無邪気にこんな質問をぶつけてきたのだろう。
僕の――俺の過去を知ったら、潔癖な彼女はどう思うだろう。
俺を見る目が変わる。確実に。
あるいは、俺に背を向けるだろうか。初めから、お互いの歩く道は同じではないとそう示すだろうか。
俺を軽蔑し、そしてそんな俺を憐れみ――自身も深く傷つくだろう。
傷ついて、でも俺の過去を許そうと頑張って、でもできずに悩んで泣くだろう。
そんな思いをさせるつもりは毛頭無い。
それに俺のなかの真実はフランソワーズに言ったことそのままなのだ。
俺にとって、したいと思ってしたキスはフランソワーズとのそれだけなのだ。だから、キスの経験が無いといったのは俺にとっての真実であり、ほんとうのことだった。
俺はフランソワーズに嘘をついた。
だけど、フランソワーズ。
きみに伝える全てのことは、――嘘だけど本当のことだよ?
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