「日常的キス」
「ねえジョー」 キスして? と言う前に、名前を呼ばれて振り返るとあっさり唇を奪っていくフランソワーズ。 「だってキスしたいなって思った時にはもうしてるもの」 しょうがないじゃないって笑う。 「それに、キスしてもいいですかって毎回訊かなくちゃ駄目なの?」 ううむ、そこなんだよな。 「あら。みんな気にしてないわ」 それは誰も君に意見できないからだと思うよ。みんな僕以上に君には甘いんだから。 「それに、好きだからキスするのよ」 うん、それはわかってる。 「なのに文句言うのって変だわ」 いや別に文句じゃないよ――いや、文句言ってたかな? 「それともジョーは私のことが嫌いなの?」 ほらきた。今日は早いな。 「嫌いじゃないっていうか大好き」 慌てて早口で言うとフランソワーズが何か言う前に抱き締めた。 「キスするのも好きだしこうしてぎゅってするのも好きだし深く繋がるのも好」 唇を人差し指で塞がれた。 「もう…どさくさ紛れに何言ってるの?」 本音だ。 「ジョーったらしょうがないわねえ」 …あれ、ちょっと待って。違うだろ。フランソワーズがいつでもキスしてくるって話だったはずで、しょうがないわねって言われるのは僕じゃなくてフランソワーズのほう……あれ? いつの間にか逆転している事態について行けず、僕はただ流れに身を任せるしかなかった。 ** 任せた結果、僕はフランソワーズと深く繋がっているから結果オーライなんだけど。 たぶん フランソワーズって意外と策士である――ということかな。 いや 意外…じゃないのかもしれない。
あのさあ。僕は日本人だから、キスっていうの日常茶飯事じゃないんだよね。
心の準備が必要――というか、まあ、単純に照れくさいんだよ。
だからできれば予告して欲しいと思うんだけど、何度言ってもその辺は一向に改善されない。
フランソワーズの言う通り、そういうのって野暮だし邪魔だといえば邪魔だし。
不意のキスだって実は嫌いじゃないけど、でもなあ。
せめてリビングではやめて欲しい――みんなのいる前とかはね。
だから――そう、兄目線だったり父親目線だったり。おのおの立ち位置は異なるけれど、そのへんやっぱり甘いんだろう。それって逆に言えば僕に対する風当たりは結構なもんだったりするんだけど。
それにこの流れだといずれ例の質問が
「ストップ」
なんだけど、腑に落ちないのは何故だろう。