「恋人」

 

 

「あなたの恋人ってどんな人?」


あまりにストレートな問いに、僕は思わずコーヒーにむせた。


「ね。どんな人?」

「えっ――ああ」


口元を拭いて、テーブルを拭いて。
僕が一連の動作をする間も、相手はテーブルの向こう側で組んだ両手に顎を載せて、手伝うでもなくじっと僕を見つめている。


「・・・そうだな」


僕は人心地つくと、目を空に向けてフランソワーズを心に思い浮かべた。

蒼い蒼い空。

澄み渡った蒼は彼女の瞳と同じだった。


「ひとことで言うと・・・強い人、かな」
「強い人?」
「うん」
「それって具体的にはどんな感じ?」


具体的に・・・と、言われても。
いったい何をどう言えばいいのだろうか。


「――僕が辛い時、一緒に闘ってくれる」


僕がひとりで抱えているものを、分けてくれと隣で手を出すのがフランソワーズ。


「それから?」

「それから――」


僕の脳裏に幾つものフランソワーズが浮かんでは消えた。


「・・・とてもひとことでは言い表わせないよ」


苦笑と共に出た僕の言葉に、相手は小さく鼻を鳴らした。


「しょうがないだろ。――複雑なんだ」


いつも守っているようで、実は彼女に守られている僕。


いつもそばにいてくれるのは、実は彼女がいないと僕が不安になるから。


いつも笑顔で迎えてくれるのは、僕がそれを見るのが好きだと知っているから。


いつも優しく抱き締めてくれるのは、そうしないと僕が――生きていけなくなるから。


フランソワーズは強い。

きっと彼女は、僕がいなくても生きていけるのだろう。
僕がいなくなっても、それでも――きっと、生きていってくれるだろう。

だから僕は安心して、闘うことができる。

いつ置いて逝ってしまっても大丈夫だとわかっているから。

 

僕はそんな彼女が自慢で・・・寂しかった。