「甘えてもいい?」

 

 

ずっと目指してきた。

バレリーナになるんだ、って。

そして今、その夢は叶った。


叶った・・・と、思う。

 

たぶん。

 

 

きっと。

 

 

 

 

 

「叶ったんじゃないのか」
「やっぱりそうかな、お兄ちゃん」
「そうだろうさ。って、お前、それを訊くために電話してきたのか?」
「そうよ」
「・・・あのな。まあ、お前の声が聞けたからいいけど、そんなことはまずジョーに訊いてやれ」
「どうして?」
「どうしてもだ」

 

 

 

 

 

だって、お兄ちゃん。
自分の夢をちゃんと叶えていて、そして更に高い目標を掲げているひとに訊けると思う?
夢が叶ったのかどうかなんて、そんなの自分で考えろって言われちゃうわ、きっと。
お兄ちゃんには甘えて訊いて、・・・甘やかされたいの。
こんなこと言ったら、甘える相手が違うだろって叱られそうだけど。

でも。

ジョーにはそんなふうに無条件に甘やかして欲しくないっていうのもある。
お互いに手を繋いで進むのはいいけれど、もたれあって停滞するのは嫌なの。
私たちはそんな関係じゃない。

そんな関係ではいけない。

 

 

 

 

 

「あぁ?なんだって?聞こえないな」
「・・・・・です」
「あのな」

ジャンは電話機を耳に押し付け、やっと聞き取ると大きく息をついた。

「ファンションが甘えてくれないからって、いちいち俺に言うな」

相手が話す間、ちょっと黙って。

「そうじゃないだろ、きっと。ファンションは小さい時からかっこつけだったからな。だからだろ」

しばし、間。

「だから。別にお前を嫌いってわけじゃ・・・はあ?あのな。そんな深刻な話じゃないだろ。本人に訊いてみろ、わかったな?」

 

 

 

 

 

「きゃっ、ジョー?どうしたの、電気もつけないで」


部屋の隅っこで、たいく座りをしているジョーは泣いているみたいだった。


「もうっ、いったいどうしたの?何かあった?」
「・・・フランソワーズは僕より先に相談する相手がいるんだね」
「相談する相手?・・・ああ、お兄ちゃんね。相談じゃないわよ。相談だったらジョーにするもの」
「じゃあ、愚痴る相手」
「それもジョーの役目よ。嫌じゃなければ」
「嫌じゃないよ。そうじゃなくて、もっと・・・」


ジョーったら。


「ジョーにはいつも甘えてるから、ちょっと反省したの」

でも、他のひとに甘えると心配になるのね?

「フランソワーズ」

ジョーが手を伸ばす。
私は彼を抱き締める。

もう・・・甘えんぼなんだから。
でも、もしもジョーが私以外のひとにこんなふうに甘えたら、やっぱり私も落ち込むだろう。

ごめんね。

 

でもちょっとだけ、ほっとした。