「バレリーナになる夢が叶ったのかどうか、って?」 フランソワーズはこくんと頷いた。頷いて――不安そうにジョーを見た。 「そんなことは」 そんなことは――自分で決めろ。 そう冷たく言われるのに違いない、とフランソワーズはぎゅっと唇を噛んだ。 「――そんなことは、フランソワーズの気持ち次第だと思う」 気持ち? 自分で決めろ、ではなく――気持ち? 「叶ったと思うなら、叶ったのだろうし、そうでないと思うなら、そうじゃないんじゃない」 禅問答のようなジョーの言葉にフランソワーズは首を傾げた。 「・・・だから、さ」 ジョーは照れたように笑うと、フランソワーズの頭に手を置いた。 「フランソワーズ自身が、自分はバレリーナになった。と思って満足しているなら、夢は叶ったって言えるんじゃないかな」 今の自分に。 自分の夢はバレリーナになること。その夢は――叶ったのか、そうではないのか。 ずっと夢だった「ジゼル」の主役を踊った。 「・・・ジョー。私」
ジョーの手がフランソワーズの肩に滑り降りた。 「だって、まだ「ジゼル」を踊っただけだもの。私が目指すバレリーナには、まだまだ全然足りないわ!」 そうよ、そうなんだわ――と熱く語るフランソワーズに、ジョーはくすくす笑いだした。 「なあに?ジョー」 思えば、自分はいつも振り返ってばかりで未来なんて見た事は無かった。 「いやね、ジョーったら。私はそりゃ色んなものが見えますけどね、未来までは視えなくってよ?」 くるくる変わる蒼い瞳。 「・・・そういう、意味じゃないよ」 しかし、フランソワーズはジョーの顔を両手で挟んでそれを許さない。 「ジョーはレーサーになって、F1パイロットになって、ワールドチャンプになって、それから・・・ともかく、まだまだ目標があるんでしょう?」 そう――どんどん欲張りになってゆく。 「私も欲張りになってもいい?」 フランソワーズはジョーの額に自分のそれをくっつけた。 「・・・欲張りだと思う?」 フランソワーズは誤解している。僕の夢は「レーサーになること」なんかじゃない。 「じゃあ、フランソワーズ。僕の夢のひとつを叶えてくれるかい?」 ジョーはフランソワーズの背中に手を回し、ぎゅうっと抱き締めた。
一緒にいるだけじゃ足りなくなる。もっともっと――近くに感じていたい。 「ジョーったら。そんな顔しないで。・・・言ったでしょう?私も欲張りなのよ、って」
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