「さくら」

 

 

 

桜が散る。


来年もまた咲くよというけれど、それは違うと思う。
樹は同じでも、花は同じではない。

毎年、毎年、違うもの。

だから、ひとは花が散るのを惜しむのだろう。

 

・・・では。

 

だったら、散らなかったら?
永遠に同じまま咲き続けるのだとしたら?

そうしたら、誰も惜しまないだろう。
ああ、そこに在るなと思うだけで通り過ぎて、いずれ忘れてしまうだろう。
いや、そもそも記憶されているのかどうかも怪しい。

桜は散るから、開花が待たれ愛でられるのだろう。

 

だったら、私たちも――あの時。

ブラックゴーストから逃げだした時に散っていたら良かったのかもしれない。
そのほうが、苦しみも悲しみも少なくてすんだ。
なのに、今も変わらずにこうしているから、苦しみや悲しみも増えてゆく。
散ることもないから、誰の記憶にも残らない。
ただそこに在るだけの私たち。

 

 

 

・・・ほらね。

 

こんなことを思ってしまうから、本当は桜を見るのは好きじゃない。
たぶん、毎年違う花を咲かせることができる桜に妬いているだけなのだろうけれど。

 

「フランソワーズ?どうかした?」

立ち止まったままの私を数メートル先のジョーが振り返る。
柔らかな褐色の瞳。

 

・・・あなたは、桜を見て何を思うの?

 

訊いてみたい気持ちもあるけれど。


でも。

 

「なんでもないわ、みとれていただけ。もうっ、ジョーったら歩くの速すぎ!」

言いながら、差し出された彼の腕に抱きつく。少し小走りで。

「ごめんごめん、でもちゃんと待ってただろ?」


ジョーが笑う。
桜の花が舞うなかで。

 

もしも、来年もこうしていられるならば。

だったら、私たちは変わらずにいるのもいいかもしれない。