「お花見」
    「ぽかぽかするね」 「ええ、ほんとね」 「いらないわね」 今日は二人でお花見デート。 とはいえ、喧騒に包まれたこの場所はデートにはやや不向きであった。 だから。 「ええ、暑くないわ」 額も。 てのひらも。 だけど。 「ううん、平気。それよりはぐれたら大変だもの」 だから二人はしっかり手を繋いでいた。 デートといっても未だに自分から手を繋ぐことは苦手なジョー。いつもフランソワーズから腕を絡めてきたり、指先を絡ませたりしてくるのに任せていた。 でも、今日は。 迷子になるから、はぐれてしまうから…と、手を差し伸べた。 「いや…綺麗だね。桜…」 「ええ、ほんとうに」   今日はそんなお花見だった。  
   
       
          
   
         関東地方では最高気温20度を上回る日が続き、桜はすっかり満開となっていた。
         「コートが要らないね」
         並んで歩く桜並木。
         とある公園、花見の名所はすでに花見客でいっぱいだった。
         あちこちの樹の根元に陣取り、思い思いの方法で桜を愛でている。
         場所選びを失敗したかなとジョーは思ったが、しばらく歩くうちにいやそうでもないかと思い直した。
         なにしろ人出が凄いのである。
         頭上の桜ばかり見ていたらあっという間にはぐれそうだ。
         「暑くない?」
         嘘である。
         ふたりとも陽射しと人混みのせいでうっすらと汗ばんでいる。
         「ごめん、汗でちょっと…」
         彼女はすぐに見つけてくれるだろうけれど。
         それでも、迷子にはなりたくないから。
         少しびっくりしたように頬を桜色に染めたフランソワーズは、しかし嬉しそうに彼の手のなかに自分の手を滑り込ませた。
         ジョーはなんだか嬉しくて、桜よりフランソワーズの頬を見ている方が多かった。
         「なあに?ジョー」
