第2話「氷に眠る巨人」
        「帰還」

3年前、僕は宇宙で散るはずだった。

けれど助かった。
仲間のちからによって。

あのとき、もう駄目だと観念した僕の心に在ったのは003だった。
ここで死んでしまうのは残念だけど、それでも、彼女の居る地球を守れたのだからそれでいい、と思った。
いつもひとりでいた僕を気遣ってくれていた、大事な仲間のひとりだったから。


その後、それぞれの仕事や生活に戻り、それきり003と会うことはなかった。
他のメンバーともメンテナンスの時に会う機会はあったけれど、遠征続きの僕はなかなか時間の都合がつかなかった。

でも、特に仲間と会う必要性を感じなかったというのが本音かもしれない。
会わずにいることが「改造前」の自分に少しでも近づいていられるような、そんな気がしていた。
だから、敢えて会わずにいた。「仲間」ではない友人たちと一緒に居る方を無意識のうちに選んでいた。
友人たちと。
そして、恋人と一緒に居る方を。

だから、みんながメンテナンスに来る日も知らなかった。
それを言うと、決まって「003とは会ってたんじゃないのか?」って言われる。
特に会う必要性も感じていなかったし、他のみんなと一緒なのに何を言ってるんだろう?
個人的に連絡を取り合っているとでも思っていたのかな。
だって、僕と003はそんなんじゃないのに。

 

ひとりストレンジャーに乗り込む。
「新車には足ならしが必要」だとイワンが頑なに言い張って、ドルフィン号は出させてくれなかった。
仕方なく、ストレンジャーでここ北欧まで来たけれど・・・。
確かに、いい足ならしにはなったよ。水陸両用だから、空を飛んだり海を渡ったり。
だけど、・・・もう二度としたくない。
大体、何時間かかるのか、誰か試算してなかったのか?

・・・疲れた。

任務の後に仲間と他愛もない話をするっていうのは、結構、大事なことだったんだな。
いつもはただやかましいだけと思っていたけれど、「仲間との会話」というのはリラックスできるものだった。
こうしてひとりっきりの任務に就くとわかる。

 

『ジョー、お疲れさま』

 

「ただいま」

思わず言ってしまって目を開ける。
運転席のシートにもたれたまま、眠ってしまっていた。
今のは空耳?
・・・なんでだろう?
どうして003の声なんか。

この後はフランスに行ってみんなと合流することになっている。
だから003を思い出したのかな。
パリは003の故郷だから。

 

・・・003、か。

彼女と一緒に居るとなんだか安心する。
母親と一緒に居るのってこういう気持ちなのかな。僕はそれを知らないけれど。
それとも、姉とか妹とか、そんな感じなのだろうか。
穏やかな気持ちになる。

お疲れさま、って言ってくれるかな。

そう思ったら早くみんなに会いたくなった。
これから長い戦いが待っている。敵も強大だ。なにしろ「神」が相手なのだから。

 

そして僕はストレンジャーを発進させた。