第12話「闘うマシーンにはさせない!」
eine stille Liebe

 

隣で車を運転している人の横顔をじっと見つめる。
確か・・・レーサー、って言っていたわ。
レースはおろか、車の事など全く知らないチヨは、いま隣にいる彼がその世界ではかなりの有名人であるという事にも気付いていなかった。
何しろ、突然やって来たのだ。そして、開口一番、
「君はもうタケシくんに会えなくてもいいのか?」
と、訊かれた。
それも、決して強い口調ではなく、むしろ少し哀しそうな。
見ず知らずの人なのに、口をついて出たのは
「そんなのイヤ。・・・会いたいわ」
という言葉だった。

・・・変なの。
私はどうして、この人を信用して車に乗ったのかしら。
しかも、こんな妙な造りの派手な車に。
普段の自分だったら、絶対にしていなかった。
初対面の男性の車に乗るなどと。
でも。
この人は信じて大丈夫。
なぜかそう思うのだった。
だって、この人の瞳。とても哀しそうなんだもの。
哀しそう・・・それでいて、どこか優しい。
たったそれだけで信用してしまったなんて、他人が聞いたら驚くだろう。
でも。
私は信用して・・・だから今、車に乗っているのだわ。

 

 

隣の席に身じろぎもせず座っているチヨの様子を時々窺いながら、ジョーは車を走らせていた。
彼女の居場所はすぐに知れた。
タケシの事務所の人間にあたったら、すんなりと教えてくれた。

 

お互い好き合っている恋人同士なのに、別れるなんてダメだ。
タケシくんはサイボーグにはならず、いま生身の体で闘っているんだ。
サイボーグになるという選択肢を捨てた以上、彼女と別れる理由はなにひとつないんだ。

恋人が目の前から姿を消す辛さを僕は知っている。

だから・・・別れなくてもいいふたりが会えないなんて、そんなのは絶対ダメなんだ。

 

 

始まりは、ふらりと一人、街に出た時の事だった。

時々、仲間と離れて一人になりたい時がある。
そういう時は、大抵あてもなく車を走らせる。
今回もそうだった。

そうして・・・彼に出会った。

昔の自分と同じ瞳をもつ彼に。

それは偶然だったのか運命だったのか。

ともかく、今はこうして彼の試合会場に向かっている。
隣に彼の恋人であるチヨを乗せて。