試合会場にチヨを送り届け、タケシの勝利を確認してから、ひとり会場を後にした。
帰り道、脳裏に浮かぶのは寄り添うタケシとチヨの姿だった。
信じ合っている恋人同士。幸せな。
・・・いいな。
ふっと笑みが洩れる。
いいな。ああいうのって。
けれど、自分にはそういう幸せは望むべくもない。
何故なら。
僕は、戦闘用サイボーグだ。
闘う事が運命付けられている。
だからといって、恋をしてはいけないという事はない。
それは十分わかってはいた。過去に恋人を持っていた事もあるのだから。
けれど。
今は、その時とは違う。
・・・彼女は。
フランソワーズは。
どんなに望んでも、恋人にはならない。
それは「仲間」だから。
戦火の中で微笑むフランソワーズ。
索敵中の真剣な眼差し。
僕の名前を呼ぶ声。
そっと支える白くて優しい手。
イワンを見つめる優しい瞳。
グレートにからかわれて少し怒った顔。
戦場に立ち尽くし、涙を流す姿。
一度思い出すと、どんどんとめどなく彼女の姿が浮かんでは消えた。
僕はこんなに彼女を見ていたのだろうか?
目で追っていたのだろうか?
彼女の姿を思い出していくのは楽しくて・・・しばらく自分の想いに浸っていた。
あの時、振り向いて僕のことを探した彼女は可愛かったな・・・とか。
僕の腕の中で泣いていた時は、こっちも泣きそうになっていたな・・・とか。
だけど。
ふと現実を考える。
・・・僕は、彼女を見つめる事しかできない。
どんなに想っても、彼女には届かない。
彼女の目に、僕の姿は映らない。
何故なら、彼女にとって僕は「仲間」の中の一人に過ぎないのだから。
他の仲間と同じ存在。
ぜんぜん、特別でも何でもなく。
いま彼女がここに居るのは、「仲間」であり有事であるからで・・・
本当は今すぐにでもパリに帰りたいのかもしれない。
・・・待っているひとが居るかもしれない。
いや。
おそらく・・・居るのだろう。
彼女が、その瞳に映す誰かが。
だからもし、僕の気持ちを彼女が知ってしまったら。
・・・彼女は去っていくかもしれない。
・・・ダメだ。
そんな事には耐えられない。
だったら、どうする?
・・・封印すればいい。
この想いを。
誰にも悟られないように、心の奥に。
気付かなかったことにしてしまえばいい。
君の事は、「仲間」としか見ていない、思っていない、と。