「お帰りなさい」

・・・驚いた。
夜の2時過ぎだから、邸内はもう消灯しているものと思っていたのに。
リビングのドアからフランソワーズが顔を覗かせた。

一瞬、心臓が跳ねる。

「た、ただいま」
結局、ずっと彼女の事を考えながら帰って来たから、一日の最後に顔を見られたのが嬉しかった。
思わず笑顔になってしまう。
「遅かったのね」
少し首を傾げて、ちょっと責めるような口調も可愛い。
「あ、うん・・・ちょっとね」
「ジョーが一番最後よ。鍵、かけておいてね」
言うとリビングに姿を消した。
・・・なんだろう。
自分の心境の変化に戸惑っていた。
心境の変化・・・と、いうよりも。
何というか、彼女への接し方が・・・わからなくなっていた。
今まで、どんな風に話していたのか思い出せない。
よく平気で話せていたなと思う。
こんなに鼓動が速く打っているのに。

「他のみんなは・・・」
続いてリビングに入りながら、平静を装って話す。
「もう部屋に行っているわ」
え。
じゃあ、君はひとりでここに居たの?
僕を待って?
「・・・待っていてくれたの?」
まさかと思いつつも、何だか心が浮き立つ。
心配されていたのかな。
・・・戦闘中じゃないのに。
なんだかくすぐったいような、それでいて温かいような、不思議な気分。
「え」
くるりと振り返って僕を見つめる。・・・蒼い瞳が綺麗だな。
「・・・迷惑だった?」
ぽかんと蒼い瞳を見つめていたから、一瞬答えるのが遅れた。
「そ・そんなこと・・・」
ないよ。と続けようとしたのに。
思わず黙ってしまった。
・・・僕が見惚れていたの、気付かれたかな。
違うよ。
見惚れてなんか、いない。
君は僕にとって・・「ただの仲間のうちのひとり」に過ぎないんだから。
念じるように思う。
悟られてはいけないから。
僕が君を好きだということを。
だから
僕は君を「好き」じゃない。「仲間」として好きなだけだ。
黙り込んだ僕を見て、彼女がふっと顔を曇らせる。
「・・・ごめんなさい」
違う。
待っていてくれて、嬉しかったのに。
そう、普通に言おうとしていたのに。
でも、僕にそう伝える暇を与えず出て行ってしまう。
おやすみなさいと一言残して。

昨日までの僕だったら。
きっと、普通に話して、「待っていてくれてありがとう」嬉しいよ。・・・って言えていた。
でも
今日はそのひとことを言うのがとても難しくて。
結局、言えなかった。
何を言っても、君に悟られてしまいそうで。
君を想う気持ちが、言葉のひとつひとつから溢れていってしまいそうで。

 

僕は。
フランソワーズ。
君のことが。

 

・・・こんなにも好きだったなんて、知らなかったんだ。

 

 

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