今日もジョーは出掛けて行った。

真夜中過ぎに防護服姿で帰って来た日から、ほぼ毎日出掛けている。
いったい何があったのか何も言わないけれど、仲間たちも敢えて彼に問うような事もなかった。
「本当に手助けが必要なら、奴はそう言ってくるさ。それまで俺たちは待っていればいい。余計な心配は無用だ」
アルベルトの言葉に、ジェットもグレートも納得して。
だから私も心配するのはやめた。
そうよね。ジョーは自分が困った事態になったら、ちゃんと仲間に言うわ。

「外で誰かと会っているのかな」
ふと洩らした声の主はピュンマ。
「毎日デートだったりしてな」
からかうのはグレート。
「いいんじゃない。気分転換は必要さ」
ジェットが言う。

誰かと会っている。ジョーが。
・・・誰、と?
いっしゅん、心がひんやりと冷たくなる。

でも、すぐに反省する。
彼が誰と会っていたって、私には関係のない事よ。
そうでしょう、フランソワーズ?

そして次に襲ってくるのは自己嫌悪の波。
どうして他人の事を詮索するの?
・・・心が狭いわ、私。
あの西部で、もっと強くなろうと誓ったのに。
もっと強く。仲間の心も自分の心も守れるように。

 

 

もし、ジョーが誰かと・・・おんなのひと、と、会っていたとしても。
それは私には関係のない事。
今までジョーに恋人がいるのか・・・とか、好きなひとがいるのか・・・とか、気にした事はなかったし、訊いた事もなかった。
だから、勝手にいないものと決め込んでいたけれど。
もしかしたら、ちゃんと居るのかもしれない。
大切に想うひとが。

・・・胸の奥が、つきんと痛む。

ジョーが大切に想うひと、ってどんなひと・・・?

彼の褐色の瞳に見つめられて。
名前を呼ばれて。
そして、腕に抱き締められるのは、どんなひとなの?
強くて優しくて、そして・・・時々、哀しい瞳をする彼に大切に守られるのは、どんなひと?

・・・ばかね。フランソワーズ。
それを知って、どうするの・・・?

 

 

私がどんなに頑張ったって、彼は私を見ないのに。

彼の目に映る私は「003」で「仲間」。
おんなのこ、じゃ、ないの。
「仲間」だからこそ、同じ場所に居ることができる。
彼を見つめていてもいい場所。・・・「仲間」として。

もし私が「おんなのこ」だったら、一緒には居られない。
だって、彼が求めているのは「おんなのこ」の私じゃなくて、「003」で「仲間」の私だから。

だから、気付かれてはいけない。私が彼を・・・好きな気持ちを。

一緒に居ると楽しくて。
声を聞くと嬉しくて。
任務だから、彼はリーダーだから、仕方なく・・・とは判っていても、彼の腕に抱き締められながら守られると嬉しかった。
だいすき。
そばに居たいの。

でも。

そんな気持ち、絶対に知られてはいけない。
もし私が彼を好きだと、彼に知られてしまったら。
もう私は一緒には居られない。
「おんなのこ」から「仲間」には戻れないから。
だから、私の中の「おんなのこ」の部分は、隠しておかなければいけない。
心のずっとずっと奥に。
誰にも気付かれないように。

 

 

深呼吸する。

・・・大丈夫。できるわよね?

 

・・・できるわ。

ずっとずっと心の奥にしまい込んでゆく。
大切な・・・わたしの気持ち。

ほら。
大丈夫。

幾重にもベールをかけて、自分でも気付かないようにしてしまうの。
気付かなかったことにしてしまうの。

・・・大丈夫よね、フランソワーズ?

 

私はジョーを想っていない。
彼のことは「仲間」としか思ってない。